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全国主要都市において、45万戸超の「ライオンズマンション」シリーズなどを提供する大京グループ。同社は社内のITヘルプデスク業務において「IBM Watson」をベースにしたAIチャットボットの活用を開始した。今回の取り組みは、将来的に顧客サービスなどにAIを活用するための試金石。この成果を糧に、幅広い業務でAI活用を進めていくという。AIに対する可能性と期待について、プロジェクトを統括した同社の中村 謙二氏と主担当として活躍した同社の吉田 倫子氏に話を聞いた。
株式会社大京
グループ情報システム部
部長
中村 謙二氏
株式会社大京
グループ情報システム部
システム開発課
係長
吉田 倫子氏
大京グループ
「ライオンズマンション」シリーズなどのマンション開発事業、戸建て開発事業、市街地の大規模再開発事業などの不動産開発をはじめ、不動産管理、不動産仲介、工事のグループ一体体制でのきめ細かいトータルサポートを展開している。近年はグループシナジーを生かした建物の維持管理、中古売買、賃貸管理、リフォーム、再開発・建て替え事業にも注力している。

ITヘルプデスク業務にIBM Watsonを活用、困りごとはまずAIに

社内業務にAIを活用しているそうですが、その狙いと経緯を教えてください。
中村氏:当社グループが管理しているマンションは1万棟弱に上り、8,000人以上の管理員、フロント業務だけでも1,000人の社員が勤務しています。同業者の中でも、これだけの社員数を持つ企業は多くありません。これは、当社グループがお客さまのライフスタイルに合わせたきめ細かなサポートを目指しているからです。しかし、日本の状況として労働人口の減少が切実な課題として浮上しています。厚生労働省の調査によると、2030年には日本の労働人口は今より約790万人減るといわれています。現在、当社グループはサービスを維持できるだけの人材を確保していますが、これから先はどうなるか分かりません。少ない人数でも良質なサービスを実現するにはどうすればよいか。未来を見据えた事業継続への危機感からAIの活用を検討しました。
その中で、なぜITヘルプデスク業務にAIを活用しようと考えたのでしょうか。
中村氏:いざ、人材が足りなくなってから取り組み始めるのでは遅すぎます。まずはできるだけ早くAIにトライしてみたいという思いがありました。とはいえ、AIは我々としても初めて扱う技術です。いきなりお客さま向けのサービスで始めるのではなく、まず社内で展開する自分たちの業務の中でチャレンジし、成果を出すことが大切だと思いました。そこでITヘルプデスク業務に着目したのです。
 
吉田氏:ITヘルプデスクの業務負荷が高まっていることも理由の1つでした。例えば、システムに何らかのトラブルがあると、ヘルプデスクに問い合わせが殺到して、なかなか電話がつながらないこともありました。ヘルプデスクへの問い合わせは月間で1,000から1,200件ほどあります。しかし、問い合わせ内容を調べてみると、その約30%はFAQやマニュアルを見れば解決できる初歩的な内容だったのです。それをAIで解決できれば、ユーザはすぐに業務に取り組め、ヘルプデスクの負担も減らせます。
今回のプロジェクトではWatsonを活用したチャットボットサービス「hitTO(ヒット)」を導入していますね。選定の理由を聞かせてください。
中村氏:AIの活用は社内でも初めての取り組み。いきなり大きな予算の確保は難しい。当初はWatsonに対して高額なソリューションというイメージが強かったのですが、実際は比較的導入しやすい価格帯でした。AI選定では、ソフトバンクからソリューションの特長や違いについてアドバイスがもらえて助かりました。有識者の方の見解を伺える機会を設けてもらえたことも大きかったです。結果、Watsonなら新しいチャレンジに前向きに取り組めると思いました。
 
吉田氏:システムはユーザインターフェースをhitTOが担い、そのバックヤードでAPI連携したWatsonが「頭脳」を提供する仕組みになっています。まずWatsonを選んだ理由は自然言語処理に対応し、学習能力が高いこと。実績が豊富でブランド力が高い点も評価しました。一方、hitTOについてはユーザインターフェースが使いやすい点が魅力でした。当社はこれまでの問い合わせ対応で培った回答シナリオをExcelベースで管理しています。これをCSVに変換してhitTOにアップロードすれば、それがWatsonの学習データに反映されます。深い知識がなくても使える運用性の高さも評価したポイントです。
―システムを構築する上で工夫した点、苦労した点は何ですか。
吉田氏:問い合わせにはできるだけ分かりやすく、ピンポイントに回答したい。そう考えて想定される質問と回答の紐づけを設計しました。当初は1つの回答に15パターンの質問を紐づけるようにしましたが、うまく答えにたどり着けないケースが多々ありました。例えば、「パソコンにログインできない」という質問をした場合、原因は「ネットワークにつながっていない」「パスワードがわからない」「パソコンの設定に問題がある」などさまざまです。Watsonは確信度をもとに問い合わせ内容を判定し、その上位のものを回答として提示するのですが、原因が複数に分散すると、一つひとつの回答の確信度が上がらず、結果的に答えられなかったり、見当違いの答えをしたりすることがあったのです。これを補正するために、原因が複数にまたがる場合でも答えにたどり着けるように、想定回答の候補をまとめて表示するなどで工夫しています。どの質問に、どの回答を紐づけるか。これはヘルプデスクのスタッフの協力を得て、何度も試行錯誤を繰り返しながら、求める答えが網羅されるように改善していきました。
―サービスリリース後のユーザの評価や評判はいかがですか。
吉田氏:社内ポータルサイトのトップページにバナーを設置し、ユーザはそこからいつでもサービスを利用できるようにしています。運用を開始してまだ間もないのですが、1ヵ月あたりの利用件数は約300件。その中で、Watsonが確信度70%以上の回答を返す割合は50%以上。滑り出しとしては、上々の結果だと思います。現在、用意している回答シナリオは約120件、質問パターンは2,300件以上あります。キーワード検索をベースにしたFAQシステムの場合、入力するキーワードが間違っていると答えにたどり着けませんが、AIはそこが決定的に違います。Watsonは文脈や言い回しを理解し、たとえキーワードが間違っていても推測し、こちらの意図を理解して適切な回答を提示してくれます。どんどん学習させれば、その精度も高まっていきます。当初は私自身、AIに対して懐疑的な部分もあったのですが、今では印象が大きく変わりました。
―システムの機能強化や他の業務への活用など今後に向けて考えていることはありますか。
中村氏:問い合わせの中で、一番多いのがパスワード忘れに関するもの。どうしてもパスワードを思い出せない場合は、担当者がパスワードを初期化・再発行していますが、AIと連動させれば、この処理を自動化することも可能でしょう。こうしたことも視野に入れて、AIの活用範囲の拡大を考えていきます。今回の取り組みはAI活用の第一歩という位置づけ。今回のプロジェクトから、やり方次第でAIは業務ツールとして十分使えると確信しました。今後はマンション管理を担う管理員や入居者向けの問い合わせサービスなどへのAI活用も検討していきます。
―AI活用を考えている企業に向けて、今回の経験からアドバイスがあればお願いします。
吉田氏:AIは便利で賢いツールですが、導入したら何でもやってくれるというわけではありません。人が手をかけて学習させていく作業が必要です。でも、手をかければきちんと応えてくれます。わが子に接するように成長を楽しみにしながら育てていく。それがAIとの良い付き合い方なのではないでしょうか。
 
中村氏:一般的な業務システムは完成形をユーザーに引き渡す形ですが、AIはまったく違うアプローチで臨む必要があると思います。100%に達していなくても、ある程度まで完成したら、あとはユーザと一緒に育てていく。学習させることで精度が高まっていくので、IT部門だけでなく、業務を知るユーザの知見も積極的に取り入れていく。成果を高めていくには、IT部門と業務部門が一緒になってプロジェクトを進めていくことが重要だと思います。
日本の人口は減少局面を迎えており、2060年には総人口が9,000万人を割り、高齢化率は40%近い水準になるという。市場の縮小に加え、懸念されているのが労働人口の減少だ。これから先、今と同じ水準で人材の確保は難しくなる。その中で企業が成長を目指すには、生産性向上や働き方改革が欠かせない。今回の大京の取り組みもそうした危機感の表れであり、迫りくる課題にいち早く手を打つという狙いがある。「AIで何ができるか」。「成果を上げるにはどうすればいいか」。まずはトライ&エラーでも始めてみることが重要だと同社は言う。今回のプロジェクトは、今後の試金石。未来志向でチャレンジを続ける同社の取り組みに今後も注目したい。

(取材日 2017.8.2)
 
株式会社 大京
http://www.daikyo.co.jp
 
IBM Watson
https://www.softbank.jp/biz/watson/
 
IBM Watson(hitTo)
https://www.softbank.jp/biz/watson/planning/solution/hitto/
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