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品川女子学院校長である漆 紫穂子氏に、同校で行われている「28プロジェクト」を通して変化した生徒の考え方や今後取り上げてみたいテーマ、さらにはAIが当たり前になるであろう未来の社会で働くことになる子供たちへのメッセージを聞いた。   

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AIと付き合う未来のために子供が今学ぶべきこと(前編)
漆 紫穂子(うるし しほこ)
品川女子学院校長。東京都出身。他校の国語教師を経て、大正8年に創立された品川女子学院に就任。同校で教育改革を行い、7年で入学希望者数を60倍にまで急増させた。2006年より校長。28歳になった時に社会で活躍している女性を育てる「28プロジェクト」など、女性の社会進出を見据えた特色ある教育に取り組んでいる。

「28プロジェクト」による変化と、AIが身近な社会で働くことになる子供たちへ

「28プロジェクト」について教えてください。
:女性には子供を産むというライフイベントがあります。今、日本の場合は30歳が第一子の出産平均年齢となっており、28歳あたりから出産が視野に入ってきます。一方で、仕事においても自立できるようになるのは28歳くらいです。そのため、28歳までに専門性を磨き、出産後でも復職がしやすいように女性のライフデザイン教育をするのが「28プロジェクト」です。

AIの存在は子供たちの将来にどのような影響があるとお考えですか?

:本校では「28プロジェクト」を通して、女性のキャリアとプライベートの両立を目指した取り組みをしていますが、そこにAIも大きく関わってくると考えています。女性は専門性の高い職種であるほど復職しやすい傾向にあります。しかし、薬剤師や会計士、また多くの資料の中から特定の判例を見つける弁護士の仕事などは、部分的AIに取って代わられる可能性があり、資格が必要となる専門性の高い職業でも安心はできない状況です。そのため、AIと共に働く将来も視野に入れ、今必要なことを授業として提供していきたいと考えています。アメリカでは「今の小学生の 65%は、大学卒業時に今は存在していない職業に就く」といったことも言われていて、子供たちが将来、どんな職業に就くかは分かりません。また、将来どの職種が残り、どの職種が残らないかも断言はできません。「28プロジェクト」では子供たちがどんな職に就いても良いように、人間にしかできないことを強化しておきたいと思っています。
授業でロボットのアプリ開発なども実施していますが、どういう視点でテーマ選びをしているのですか?
:時代の流れとしてIT分野の方からお話をいただく機会や、ITに興味を持つ生徒も増えているので、Pepperのアプリ開発やプログラミングの授業も行いましたが、IT学習教材を企業の方と一緒に作る授業なども実施しました。世の中には多くの職業があり、それぞれの最先端がどうなっているのかは我々教員では分かりません。しかし子供たちは卒業すると様々な分野に進んでいきます。そのため、外部の力を借りて今のうちから子供たちの世界を広げておきたい。自分のしている勉強と未来がどうつながっているのかを知ればモチベーションも上がるはずです。そこを意識して目的を狭く限らないよう様々な分野の体験を提供しています。
「28プロジェクト」を行うようになり、生徒の進路や考え方に変化はありましたか?
:生徒には18歳の大学入試はゴールではなく通過点だと伝えていますが、「28プロジェクト」を始めてからは、生徒自身が将来やりたい仕事から逆算して進学を考えるようになって、受験する学校の幅が広がりました。子供に「将来何になりたい?」と聞いたとき「お医者さん」とか「お花屋さん」と答えるのは、実社会についての情報が限られているから。色んな仕事や学問の情報をインプットすれば将来へのビジョンが生まれてきて、職業へとつながる通過点の学部学科の選択肢も増えるということです。他には、どんな学科でどんな教授がいて、どんな勉強ができるのかという専門性を中心に考え、偏差値だけではない選び方をするようにもなりました。数学が苦手なのに薬剤師になって人の役に立ちたいから薬学科で必死に勉強している卒業生や、数学は得意だけど会計士になりたいので、商学部に入るため文系科目を勉強している生徒などもいます。
IT分野に興味を持つ子供が多い時代で、教育における新しいテーマはありますか?
:これからの教育テーマとして「集合知」というものがあると思っています。今はネット上で情報を取得し共有できる時代。本校でも生徒たちにタブレット端末を持たせているのですが、試験前になるとSNS上で「ノートを貸して欲しい」とか「ここを教えて!」など、教員も一緒に参加したやりとりがたくさん生まれます。ノートは仲の良い友達からしか借りられない、あるいは貸してもらえないようなことはなく、ノートを取った子はそれを全生徒に向けオープンにすることで、その子を中心にたくさんの情報が集まります。昔は一生懸命個人で知識を取り入れて蓄えることが有効であり、それが専門性にもつながっていましたが、今はオープンにシェアできる人がプラットフォームを作ります。そうした「集合知」の時代で大事なのがテクノロジーを理解し使える力。そして人に情報提供する気前の良さや親切心。この両方を持っている子供が活躍できると思っています。
世の中にアンテナを立てているなかで、最近興味を感じたサービスがあれば教えてください。
:対人関係のサービスです。本校の近くの商店街ではシャッターを下ろすお店が増えてきており、魚屋さんや肉屋さん、本屋さんなどが無くなっています。例えば魚屋さんに行けば魚をさばいてくれて、料理のアドバイスもしてくれる。そうしたサービスも含めると街の魚屋さんならではの良さも感じるのですが、値段の高い安いだけを見て判断されてしまう、合理化され過ぎた時代になっているのではと思っています。しかし、女性の働く時間がもっと増えて家事の時間が減ってくると、個別の対人サービスがクローズアップされてくると考えています。私の場合も家電はあえて近所の電気屋さんで買っています。商品は正規の価格で買いますが、何かあればすぐに来て対応してくれるサービス込みで考えれば安い。ネットで買ってドローンで商品が届く世の中に、それとは正反対のような対人サービスに注目しています。
今後、「28プロジェクト」で取り上げたい内容を教えてください。
:これまで共感力を上げるため日本文化の授業を行い、問題発見力を身に付けるためにデザイン思考に関する授業を5年間、実社会で応用できるよう、企業とのコラボレーションや起業体験プログラムを10年間続けてきました。さらにこの先のAIの時代に向けて「マインドフルネス」に注目しています。「マインドフルネス」は禅やヨガ、冥想を通して自身の内面を見つめる力や直感力に磨きをかけることなのですが、そうした数値に表れない力を養うことが技術革新の時代において大事になると考えています。技術革新が進むにつれ、自分の内面から発せられる声を聞く力や人の表情を読む力は衰えてきます。「マインドフルネス」はGoogleの研修にも取り入れられていますが、将来を見据えて学校現場でも提供していく必要があると感じています。
AIが当たり前になる社会で働くことになる子供たちへ、伝えたいことを教えてください。
:自分はなぜ生まれ、どう生きていくのかという、AIには無い命について考えること。そして、データだけでは語り切れないことをテーマとして持っている人であってほしいと願っています。AIやビッグデータの時代では、数字にならないものが置き去りにされて行く危険性があります。以前、ある企業の役員の方が「POSの存在によって将来、需要が生まれるはずの商品が短期で売れていないという理由で切り捨てられているかもしれない」というお話をしていました。そういったことは、データから答えを導き出すAIによって拍車がかかると予想されます。また、専門家は他の人には無い知識を持っていたから専門家でしたが、AIの方がよく知っているということも起こり得ます。そこで子供たちには、たくさんコミュニケーションをして多くの人と付き合い、情報を共有しあいながら集合知を深めていくこと。学習においても互いに励まし見守りあいながらモチベーションを高めていくことなど、数値化や効率化だけでは図りきれない、すき間の部分を大切にしてもらいたいと思います。無駄がいっぱいあることが大事。でも、これからの時代は無駄って無駄じゃないと思っています。
品川女子学院では28歳までに専門性を磨き、女性のライフデザイン教育をする「28プロジェクト」を推進。外部の企業を招いて行う授業では、ロボットアプリから学習教材の制作まで幅広いテーマで生徒の視野を広げているという。その中で漆氏は、女性は出産後も専門性の高い職種であれば復職しやすいが、AIに取って代わられる可能性もあるため、人間にしか分からないことを強化したいと述べた。また、興味を持つ生徒が増えているIT分野では、情報をネット上でオープンにシェアし、たくさんのコミュニケーションによって知識が集積される「集合知」や、テクノロジーを理解し使える力、そして気前の良さや親切心も大切であると語った。一方、効率化や合理化が加速する時代において、値段だけでは測れない付加価値として対人サービスに注目しているほか、今後は自身の内面を見つめる力や直感力に磨きをかけるマインドフルネスなど、数値からは見えてこない「すき間」を大切に考えた教育を目指していきたいことが語られた。

(取材日 2017.1.13)
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