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坂村 健(さかむら けん) 東京大学大学院 情報学環 教授、工学博士
コンピュータアーキテクト(電脳建築家)。IoTの原型となるオープンなコンピュータアーキテクチャ構築のための「TRONプロジェクト」を1984年に開始。カメラ、モバイル端末、家電などの組込みOSとして世界中で多数利用されている。さらに家具、住宅、ミュージアム、ビル、都市などへの広範囲なデザイン展開を行っている。2002年よりYRPユビキタス・ネットワーキング研究所長を兼任。2009年より東京大学大学院情報学環 ユビキタス情報社会基盤研究センター センター長を兼任。2017年4月から東洋大学情報連携学部「INIAD」学部長就任。IEEE Life Fellow, IEEE CS Golden Core Member。2003年 紫綬褒章、2006年日本学士院賞、2015年 ITU150周年賞受賞。

異なるメーカの製品がクラウドでつながる「オープンIoT」

1980年代から「TRONプロジェクト」をはじめ、IoT領域を最先端で研究し続けてきた坂村 健氏。2015年にはビル・ゲイツ氏らとともに「ITU(国際電気通信連合)150周年賞」を受賞するなど、世界のIT化に最も影響を与えた人物の一人と評されている。今回はその第一人者に、IoTの今と未来を聞いた。
- IoTという言葉はテレビなどでも少しずつ目にするようになりましたが、30年前を振り返ってみて現状をどのようにお考えですか。
坂村:IoTの構想自体は1980年代からスタートしていて、当時私は「HFDS(Highly Functionally Distributed System)」と呼んでいましたが、他にも「ユビキタスコンピューティング」や「サイバーフィジカルシステム」だったり、色々な呼び方があって、それが今すべてIoTという言葉に集約しつつあります。最先端の研究というものは、世の中に広まるまでに10年、20年単位の時間がかかる。理論上可能なものを実用化するためには、技術をはじめさまざまな環境の整備が必要になる。それがIoTでいうと通信環境です。ようやく30年経ってどこでも手軽に高速かつ大容量の通信が可能になってきた。しかも低価格で。そのようなインフラ面の充足とともに、IoTも研究フェーズを越えて、モノの中にコンピュータが入るようになり、それがインターネットにつながる時代になってきたということです。20年ぐらい前からアナログ電話を使って外出先から自宅の暖房のスイッチを入れるなんていう実験はしていましたから、考え方自体は新しいものではないんですが。今、さらに注目を集めているのは「オープンIoT」ですね。
- 「オープンIoT」とはどのような技術なのでしょうか。
坂村:今、市場に出てきているインターネットにつながる家電のほとんどは、そのメーカの家電と、そのメーカのアプリで完結している場合が多い。少し前にスマートハウスやインテリジェントハウスと呼ばれる商品が鳴り物入りで登場しましたが、すべての家電を同じメーカの製品で固めることが前提になっていた。でも実際そんな人っていないですよね。テレビはA社、エアコンはB社で、冷蔵庫と洗濯機はC社となると、それぞれが横でつながらないから、それぞれのアプリが必要になるわけです。だからマーケットは広がらなかった。それを受けて、今は単に機器がネットワークにつながっているだけではなくて、クラウドを経由させて、その中でそれぞれの機器をつなげよう、という動きが出ている。それを「オープンIoT」と呼んでいます。
異なるメーカの製品をそれぞれ直接つなげるというのは、規格の標準化などの必要があって非常に難しい。だからすべてをクラウドにつなげて、その中であらゆる処理を行えばいいという考え方なんです。クラウドの中ならあとはソフトウェアの問題だけになるので。これは通信速度がものすごく速くなった今の時代だからこそ現実になってきた話であって、しかもそういった通信も含めて、機器の制御が小さなマイコン1チップでできる時代なので、そういった環境面の進化は非常に大きい。今の家電って、情報処理系のOSやタッチパネルを組み込んだりしていて、どんどん豪華なものにしようとしていますね。でもそれでは値段が上がってしまうので普及しない。ネット時代の家電はそのような作り方ではダメ。高機能なものはぜんぶクラウドで処理して、家電としては最低限の機能だけにする。メーカ側もそのあたりの考え方を変える必要があるのではないかと思いますね。
- 今後「オープンIoT」はどのような領域への展開が考えられますか。
坂村:家電IoTの他というと医療の領域での応用が注目されていて、例えばもうすでに「バイタルメーター」というものがありますね。心拍数や歩数とか消費カロリーなどの情報を腕時計ぐらいの小さなデバイスからとることができる。その情報が健康診断の結果などのデータと一緒になって、先ほどのオープンの考え方でクラウドに蓄積されるとビッグデータになる。それを解析することによって、他の人とのデータと比較ができるようになって、例えば心筋梗塞になった人はどういう傾向かが分かったり、逆に統計データから似たようなパターンの人に警告を出すことが可能になります。ただ今の日本は、制度が追いついていない。IT時代の制度になっていないんです。それはプライバシーに対する考え方ももちろんありますが、例えば病院が違ったらカルテは渡さないし、住民票データの移動も簡単にはできない。市町村ごとにシステムが違うから紙ベースで非常にアナログで手間のかかる手続きが必要になる。世界がどんどん進んでいるのに、未だにハンコを使っているような日本は置いていかれるでしょうね。
- 他の先進国における「IoT」を活用した事例を教えてください。
坂村:北欧などでは、いわゆるマイナンバーを国民に付与して、それをさまざまな行政サービスに活かしています。例えば入院するときなどは、ナンバーを渡してしまえば書類に名前や住所や過去の病歴などを書く必要がないし、子供が産まれたら、医者が政府のクラウドサーバにアクセスして自動的にナンバーを割り振ります。日本は出産時や結婚時もいまだに書類の提出が必要ですよね。向こうではそんな煩わしい手続きはもうやっていないんです。そして子供が義務教育を受ける年齢になったら、自動的に学校案内のメールが来るようになっている。日本においてこういったシステムが浸透しないのは、テクノロジーというより制度の問題が何よりも大きいんです。
ドイツでは「IoT」を応用したインダストリー4.0というプロジェクトが進んでいます。簡単に言うとトヨタのカンバン方式を、国を挙げてやる、ということなんですが、無駄な輸送をやめるために、組立工場で組み立てを始めるときにジャストインタイムで部品を積んだトラックが到着する。そうすれば倉庫が不要となります。そのような計画を進めていて、これは国家規模の話だから、やっぱりキーワードは「オープン」ということになる。日本企業はまだまだクローズで、自分たちだけのためのシステムというのは分かるんだけど、ある意味共存していくためには“つながること”が重要だと思います。連携していくことで、生産性も上がっていくし、社会も変わっていきます。
- IoTは人工知能(AI)の領域とも深い関わりがあるかと思いますが、そのあたりについてお聞かせください。
坂村: 「オープンIoT」の考え方ではクラウドにものすごい量のデータが集まってくる。それがビッグデータになるわけですが、その解析は人間にはもう無理。だからコンピュータを使うしかないわけで、今注目されているのがAI、ディープラーニングや機械学習というものですね。AIの研究はとても歴史が長いんですが、今までなかなかブレイクできなかった。でも3年ぐらい前に畳み込みニューラルネットワークっていうのが出てきて、これは膨大な量のデータがあることが前提だったので、ちょうど「オープンIoT」でビッグデータが取れるようになりつつある今の状況とすごくタイミングがよかったんです。そのような意味で今、AIは世界中の研究者が競い合っている領域で、これまで限界と言われていたことを最前線でチャレンジするっていう姿勢がAIの研究者としては正しいと思います。AIには限界があるなんてことを言う人は、全員怪しいと思ったほうがいいぐらいです(笑)。
- 坂村教授が今取り組んでいるプロジェクトについて教えてください。
坂村: AIの領域もそうですが、今、日本は世界からどんどん置いていかれつつある。そもそもこのIT時代において、そのスピード感に付いていけるような人材が全国的に不足しているということで、2017年4月に、東洋大学に新しい学部として情報連携学部「INIAD(Information Networking for Innovation and Design)」を設立します。私が学部長となるわけですが、赤羽に2,000人弱を収容できるIoT化された次世代型のキャンパスをつくって、そこでプログラミングをはじめとしたコンピュータ・サイエンスの教育をベースに、ビジネス、デザイン、エンジニアリング、シビルシステムといったことを学ぶ環境を整えています。一般的な大学における一般教養とは異なって、1年次ではコンピュータとコミュニケーションスキルを教育し、その後も文・芸・理が一体となった教育で、イノベーションを創出できるような人材の育成を目指しています。その他にも、国と進めているプロジェクトがありまして、「OPaaS.io おもてなしプラットホーム」というものをつくろうとしています。個人情報をどう使うかっていう考え方は、日本は未だに「CRM(Customer Relationship Management)」といって、メーカや販売店が顧客情報として管理しているのが一般的ですね。
一方で世界がどうなっているかっていうと「VRM(Vendor Relationship Management)」を目指してきていて、これはユーザが自身の情報の提供先を選択する考え方。情報の管理自体は消費者主導で行う。これを日本でもやろうとしていて、総務省とともにプロジェクトを進めています。2020年のオリンピックを見据えて、国民はもちろん海外からの観光者にとっても有益なものを目指しています。人材面もそうですが、日本をIoT先進国にするために、今後もいろいろなプロジェクトに関わっていくつもりです。
東洋大学情報連携学部「INIAD」の概要
エンジニアリング、デザイン、ビジネス、シビルシステムという4つの学問分野を志す学生が、プログラミングをはじめとしたコンピュータ・サイエンスの基礎を学び、情報を軸に互いに連携する力を身に付けるという、新コンセプトの情報系学部。2017年、東京都北区赤羽に開設予定(情報連携学部:1学年定員400名、大学院 情報連携学研究科:1学年定員20名)。学部長は坂村健(現 東京大学教授)、研究科長は花木啓祐(現 東京大学教授)。

学校法人東洋大学 情報連携学部 INIAD
〒115-0053 東京都北区赤羽台1-7-11
TEL:03-5924-2600 メール:contact@iniad.org

(取材日 2017.1.12)
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