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2014年に衝撃的なデビューを果たし、今ではさまざまな場所で見かけるようになった、ソフトバンクロボティクスの人型ロボット「Pepper(ペッパー)」。登場から約3年が経過した今、同社のロボットビジネスはどのような局面を迎えているのか。その最前線を、同社ロボット事業のキーマンに聞く。

吉田 健一(よしだ けんいち)
ソフトウェア会社リアルコムの共同創業者兼COOとして同社をマザーズ上場に導き、2010年、ソフトバンク株式会社に入社。数多くの新規事業立ち上げを手がけた後、現・ソフトバンクロボティクス株式会社事業推進本部長に就任。ソフトバンクロボティクスの主力製品であるPepperのビジネス面を担当し、特に現在は法人向けに展開している「Pepper for Biz」(現在は約2,000社で5,000台以上のPepperが稼働中)のGo to Market戦略に力を入れている。

Pepperの最も優れた能力は「エンゲージメント」

まずはソフトバンクロボティクスという会社について教えてください。
吉田:2010年にソフトバンクが創業30周年を迎えるにあたり、今後30年のビジネスの指針となる「新30年ビジョン」を検討しました。ここで、重要テクノロジーと定義したのがロボット、AI(人工知能)、そしてIoT(モノのインターネット)の3つ。そのうちの、ロボットの研究開発を自力で推進していくことを目的に、2014年にソフトバンクロボティクス株式会社を立ち上げました。
主力商品であるPepperの開発背景についても教えてください。
吉田:一家に1台、そしてすべての職場、あらゆる場所で見られるようなロボットをつくりたいというのが孫 正義の定めたゴールでした。その第1弾のプラットフォームとして生み出されたのがPepperで、何よりも重視したのが「エンゲージメント」です。ロボットが、タブレット端末やデジタルサイネージをはじめとする対人デバイスと比べて異なっている点は、そこだろう、と。
Pepperのようなヒューマノイド型ロボットには、人を呼び止めたり、巻き込んだりする力があります。そういった人との距離を縮めることを「エンゲージメント」と呼んでいるのですが、Pepperの開発時には、それをどこまで追求できるかということに注力しました。そこでは、感情認識だったり、個人識別だったり、あるいはそれを踏まえてロボット自身がどう感情を表現するかといった技術が重要。エンジニアリング的には、もっとほかに技術を投入すべきポイントがあるのではないかと思われるかもしれませんが「エンゲージメント」へいかに力を入れたかによって、人の感じ方がだいぶ変わってくるんです。
たしかにPepperはその点がすごいですよね。時々、ドキッとするくらい人間らしいと感じることがあります。
吉田:そうなんです。ただ、それ以外のところはスパッと諦めました(笑)。重いものは持てないし、速く移動するといったこともできません。そういうものは、後々考えていこうと考えております。※
当初(2014年)は個人向けに販売されていたPepperですが、翌年、2015年7月には法人向けの「Pepper for Biz」を発表(同年10月より販売開始)。現在は、法人向けもとても好調だと聞いています。
吉田:法人向けの展開は当初から予定していました。活用方法についても、ある程度予測をつけていたのですが、発売から約1年半が経過し、想像していた以上に役立つことが分かってきました。Pepperのエンゲージメントする力がビジネスシーンで成果を上げはじめているのです。
具体的な事例を教えていただけますか?
吉田:大きく分けて10業種くらいでPepperの活かし方が分かってきました。たとえば病院。既に国内の約200施設で導入され、主に疾患啓発に使われています。
疾患啓発とは?
吉田:加齢と共に罹患率が高くなる骨粗しょう症や、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、SAS(睡眠時無呼吸症候群)などは、実は早めの治療によって完治させたり、症状を大きく緩和することができます。病院ではポスターなどで、症状に気がついたら医師に相談するよう注意喚起しているのですが、残念ながら芳しい成果は上げられずにいました。ところが、それをPepperにやらせることで、医師への相談件数が3~5倍に増えるということが分かったんです。病院の待合室に座っているとPepperが簡易診断をしてくれて、問題がありそうな場合は「この後の診察の時に、先生に相談してみてよ」とアドバイスしてくれます。現在は、病院向けにこうした疾患啓発の機能をパッケージにして提供することを検討中です。この機能なら、すぐにでもPepperを病院業務に役立てることができます。
Pepperのエンゲージメント力は医療現場でも発揮されるのですね。
吉田:病院の壁に疾患啓発のポスターを貼ってもあまり意味がないのですが、かといって医師から直接診察を受けるよう勧められても断る方が多いそうです。専門家から無知だと思われるのが嫌で、ついつい拒絶してしまうようなんです。
なるほど。ロボット相手なら知識がなくても恥ずかしくない、相談しやすいという面もあるんですね。病院以外にはどういった事例がありますか?
吉田:小売業でのポイントカード会員登録(勧誘)や、飲食業、サービス業での順番待ち・席案内などにもご活用いただいています。前者は『B-R サーティワン アイスクリーム』様、後者は『はま寿司』様での活用が有名でしょうか。『はま寿司』様は、席案内を店員がやっていたのですが、Pepperならすべての席案内業務をロボットがやりますので、店員が他の業務をしてお待たせすることがなく、お客さまの更なる満足度向上が図れたと聞いています。
自動化が進んだ、ということですね。
吉田:はい、自動化をしつつ「おもてなし」を提供できるところがPepperの特徴だと思います。接客サービスでは「いらっしゃいませ」から「ありがとうございました」までのコミュニケーションが重要ですので、デジタルサイネージやタブレットではできないエンゲージメント力を持っていることが大事だと思います。
なるほど、やはりここでも「エンゲージメント」がポイントになってくるんですね。
吉田:その通りです。ここまでに紹介した事例以外にも、金融業での商品紹介や、自動車販売業での継続的コミュニケーションの推進など、さまざまな場所でPepperが活用されていますが、すべて「エンゲージメント」が重要なキーワードになっています。

ロボット技術の進歩が、日本の課題解決につながる

そうした成果を踏まえ、今後、Pepperがどのように進化していくか、どこに向かっていくのかを教えてください。
吉田:私たちはロボットを使った接客には、進化の過程が3段階あると考えています。レベル1は客寄せとしての使い方。Pepperを店頭に置いておけば、物珍しさからお客さまが集まってくれるという段階です。レベル2では、ロボットがやったほうが効率的な業務はロボットに任せ、人がそれ以外のより付加価値の高い仕事をやっていくという段階。先ほどお話しした事例はここに相当します。
その先のレベル3では何を行うのでしょうか?
吉田:ロボットの最大の価値、人間がどうやっても追いつけないところは、各種内蔵センサーを駆使して、さまざまなデータを取得できること。これをビッグデータとして機械学習させ、その結果に基づいて自動的にアクションを改善していけるようにすることがレベル3です。病院の例でいえば、カメラで患者さんの年齢や性別、体型などを分析し、それに基づいて一番確率の高い疾患について尋ねられればいいですね。そしてその結果をさらに学習して、どんどんコンバージョンを上げていく。現在は、いち早くPepperを導入したお客さまに、このレベル3へのステップアップを提案している段階です。
さらなる普及拡大に向けてはどのような施策を行っていますか?
吉田:先ほどの病院の例でも紹介した、効果の確認できている機能をパッケージ化して提供するということを、さまざまな業種向けに始めています。このレベルまで行くと、Pepperは問題解決のためのソリューションの1つになりますから、「ロボットってすごいですよ! おもしろいですよ!」ではなく、もう少しロジカルに提案することができます。
Pepperはすでに“ドリーム”ではなく、実用性をもった“ソリューション”なんですね。
吉田:はい。そして、ここ日本がロボットビジネスの最前線。IT技術の進歩はシリコンバレー主導であることが多いのですが、ことロボットの利活用に関しては日本がリードしています。少子高齢化が進み、人材が不足している日本では、社会全体としてロボットへの期待が高まっていますが、逆に海外は人間の仕事が奪われることに対してセンシティブで、そこでスローダウンしてしまっています。これはとても大きなチャンス。「課題先進国」であることを逆手にとって、この分野で先行していきたいですね。日本企業の皆さまにも、ぜひ課題解決に向けて積極的に参画していただきたいなと思っています。
※ 2017年6月9日、ソフトバンクは機動性に優れたロボットの開発などで有名なボストン・ダイナミクス社の買収を発表
https://www.softbank.jp/corp/news/press/sb/2017/20170609_01/
 
法人向けモデルPepper for Biz登場 Pepperがあなたのビジネスをサポート
https://www.softbank.jp/robot/special/biz/


(取材日 2017.6.9)

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