• TOPICS
  • IoT

テクノロジーの進化は、私たちの生活を便利にする一方で、私たちの働き方を変える。そして、働き方の変化に適応するには「未来を見通す力」が必要だ。未来を想像して、準備するしなやかなメンタリティが求められる。
本企画では、「テクノロジーとビジネスの未来を読むことのできる本」を本のソムリエたちが紹介する。3人それぞれの“未来の解釈”の中にこそ、これからのビジネスパーソンの生き方、そして、働き方のヒントがあるかもしれない。

1.幅允孝(はば よしたか)
有限会社BACH(バッハ)代表。ブックディレクター。未知らぬ本を手にしてもらう機会をつくろうと、本屋と異業種を結びつける売場やライブラリーの制作をしている。最近の仕事として「ISETAN The Japan Store Kuala Lumpur」書籍フロア、「Japan House São Paolo」など。その活動範囲は本の居場所と共に多岐にわたり、編集、執筆なども手掛けている。著書に『本なんて読まなくたっていいのだけれど』、『DESIGN IS DEAD(?)』(監修)など。 愛知県立芸術大学非常勤講師。
www.bach-inc.com
2.内沼晋太郎(うちぬま しんたろう)
1980年生。一橋大学商学部商学科卒。numabooks代表。ブック・コーディネイター、クリエイティブ・ディレクター。2012年、下北沢に新刊書店「本屋B&B」を、博報堂ケトルと協業で開業。青森県八戸市の公共施設「八戸ブックセンター」ディレクター、読書用品ブランド「BIBLIOPHILIC」プロデューサーなどをつとめる。著書に『本の未来を探す旅 ソウル』(共著・朝日出版社)、『本の逆襲』(朝日出版社)、『本の未来をつくる仕事/仕事の未来をつくる本』(朝日新聞出版)などがある。
3.暦本純一(れきもと じゅんいち)
1986年 東京工業大学理学部情報科学科修士過程修了。日本電気、アルバータ大学を経て、94年より株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所に勤務。2007年より東京大学大学院情報学環教授(兼 ソニーコンピュータサイエンス研究所副所長)。多摩美術大学客員教授。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科 訪問教授。グッドデザイン賞審査委員。電通ISIDスポーツ&ライフテクノロジーラボシニアリサーチフェロー。PlaceEngine、AR事業を展開するクウジット株式会社の共同創設者でもある。世界初のモバイルARシステムやマルチタッチシステムなどを発明してきたヒューマンコンピューターインタラクション研究者。人間の能力の拡張や、未来のスポーツに関する研究を行う。

(1) 幅允孝の1冊:『あなたの知らない脳』デイヴィッド・イーグルマン

熱心に考え、意識的に行動することが仕事や生活における成功や幸福をもたらす。などとよくいわれるが、果たしてその「意識」はどこからやってくるのか?

アメリカの神経科学者デイヴィッド・イーグルマンの『あなたの知らない脳──意識は傍観者である』という1冊は、なかなか恐ろしい本である。なぜなら彼は、私たちの行動をコントロールしているのが自身の意識ではないことを脳神経学の見地から明らかにしてしまうからだ。

イーグルマンの研究によると自分の意識が物事を決めているようでいて、実際は脳にあるニューロンのジャングルが独自の判断を成しているという。自身の意思が支配している領域はごく一部。人が見聞きするもの、やること、考えること、信じるものさえも、意識のあずかり知らぬ脳の働きによって決定付けられていると聞いて、あなたは驚きを隠せないはずだ。
運転中の誰かが衝突の危険を認識する前にブレーキを踏むことができるのは、意識よりも優先される何かがあるからだ。「自分好みの顔」と思っていた異性のタイプは、脳が太古から進化する過程で導き出されたプログラムの結果だともいう。そういわれてしまうと何だか少しやるせない気持ちにもなるが、「自分が自分の中心にいる」という意識を変え(これもまた『意識』だが)、主役の座を譲り渡すことによって広がる世界もあるはずだ。地球が世界の中心ではなく宇宙に浮かぶ一つの星に過ぎないとガリレオ・ガリレイが発見したことで、人が宇宙の神秘を受け入れるようになったのと同じことである。

なお、この本が優れているのは今まで書いてきたような脳科学の前提を基に、犯罪と法律という極めて実際的な問題をイーグルマンが読者に突きつける点にある。たとえば、ある男は突発的に特殊な性的嗜好を発症したが、脳の腫瘍を取り除くことによって正常に戻った。人は前頭葉が傷つけられると「脱抑制」という状態になるのだが、さて、彼の「根本的な」性的嗜好はどうだったのだろうか?
脳が人の行為をほとんど支配しているのだとしたら、犯罪の行為者や中毒者にはどうすることもできなかったという主張も成り立ってしまう。そういった時に、犯罪の有責性や刑罰制度のあり方、更生の方法はどうあるべきなのか? イーグルマンは「非難」よりも「修正」が大切だという持論を提唱しているが、少なくともこの本が示唆するのは脳科学の研究者は今後、法制度についても考え続けなくてはいけないということだ。

「生物学的視点に基づいた法学」などというと、あなたは突飛なように感じるかもしれない。けれど、未来の脳神経学は学術的ジャンルの壁を超えて、容赦のない世界へ染み出していかなくてはならないだろう。AIがTwitterで差別発言をしてしまうような世の中はやってきている。さまざまな専門知識が交錯した地点から新しい世の中は始発するのだろうし、その時はイーグルマンの言うように人間を客観視する視点が必要になってくるように思える。
『あなたの知らない脳──意識は傍観者である』(早川書房)
デイヴィッド・イーグルマン(著)、大田直子(訳)

人間は通例、「自分」=「自分の意識」であり、「自分の意識」が行動をコントロールしていると思っている。しかし本書では、人間の行動のうち、自分たちが意識的にコントロールしているのは、ほんの一部に過ぎないと明かす。人間の脳はたいてい自動操縦で動いており、意識は遠いはずれから脳の活動を見ている「傍観者」であるというのだ。では、人間が自分の行動を意識でコントロールできないとしたら、その行動の責任は誰が取るべきなのか? 脳の仕組みを解明するにとどまらず、現在の法制度に対する脳科学的視点からの見解、犯罪者の更生のためのアプローチまで論を展開する、新しい脳科学解説書。

(2) 内沼晋太郎の1冊:『ベストセラーコード』ジョディ・アーチャー&マシュー・ジョッカーズ

「良い本をつくれば売れる」という台詞はよく知られた、昔ながらの編集者の方便だ。けれど実際は、編集者が思う「良い本」が売れないこともあれば「良くない本」が売れてしまうこともあり、近年では当然のように「『良い本をつくれば売れる』というのは幻想だ」とされている。テキストや写真など、いわゆる本の中身それ自体の力だけでは遠く及ばず、事前のマーケティング、営業や宣伝の努力、そこに運が大きく関与して、ベストセラーになるものが、たまにある。だから狙って生み出せるようなものではない。そう信じられている。

けれど本書の著者たちは、ベストセラーのテキストには共通点がある、という仮説を立て、それをテクノロジーの力によって明らかにしようとした。ニューヨーク・タイムズのベストセラーリストから500冊、それ以外の小説を4,500冊選び、それら5,000冊のテキストを徹底的にデータ分析。そして衝撃の結果を明らかにした。ベストセラーのテキストには、確かに共通点がある。ベストセラーは、やはりテキストの中身によって決まっている、というのだ。人間であるところの編集者がそれを見極められるかはさておき、「(コンピューターが認める)良い本をつくれば売れる」という命題は、正しかったというわけだ。
さらに衝撃的なのは、コンピューターが売れる本を見極めるその基準だ。たとえば、コンピューターは5,000冊の小説の中から、テキストから抽出した小説の「テーマ」と「トピック」だけを頼りに、もっともベストセラーになりやすい作家として、ダニエル・スティールとジョン・グリシャムの2名を選んだ。米国では言わずと知れた、屈指のベストセラー作家である。つまりここで明らかにされたのは、ダニエル・スティールとジョン・グリシャムこそが、米国で最も売れる「テーマ」と「トピック」を選んでいる作家である、というシンプルすぎる事実だ。売れる作家は本文の30パーセントにもっとも大切な一つか二つのトピックしか入れない。スティールは「家の中で過ごす時間」が、グリシャムは「法律」が必ず3分の1を占め、残りの3分の2を別のトピックにすることで変化をつけている、というのだ。それどころではない。本書には「and」や「do」の割合、句読点や動詞の使い方など、およそベストセラーとは関係のなさそうな要素の分析から、一見信じがたい結論を次々と出していく。けれどそれは、ベストセラーを連発する小説家からしてみればおそらく、薄々感じていたことばかりなのだろう。
本書に出てくるのは英語圏の小説に限定されたツールだが、あらゆる国のあらゆるジャンルの出版社に導入されるのも、そう遠い未来ではないのかもしれない。あるいは作家自身がツールを使うようになるのかもしれない。まるで体温でも測るように、書きあがったテキストをツールに通して、出た数字を見て判断を下す。そのようなプロセスを想像するとき、ぼくたちは直感的に、「面白くない」「味気ない」と感じる。たしかに作品がどこかに収斂(れん)していき、画一的になっていく予感は否めない。けれど一方で、それは人間の不完全さによって不当に歪められていた現実、たとえば新人賞に応募しても原稿の冒頭の数行だけ読まれて、賞レースにはかすりもしないというような現実に対して与えられる、客観的で平等な機会にもなり得る。

そしてテキストにテクノロジーが関与することで生み出されるビジネスは、もちろん出版だけではない。商品のネーミングや宣伝、新卒採用の告知から政治家の選挙活動まで、およそテキストが関わらない分野のほうが少ない。本書は技術的なバックグラウンドがなくても理解できるように書かれているため、文系のためのテキスト分析の入門書としても最適だ。実際に組み立てることはできなくとも、少なくともいま、どのくらいのことができるのかという勘所をつかむことができる。実際、本書で採用された技術的な手法についても巻末に追記としてまとめられているほか、日本版解説は『統計学が最強の学問である』の西内啓さんが担当し、さらに丁寧に注釈してくださっている。著者たちのアプローチの具体的な手順をまとめたうえで、「以上のような業務について、日本国内でも実際に行い、ビジネスにつなげたいがどうやっていいかわからないという方がいらっしゃれば是非ご相談いただけると幸いである」という一文で締めくくられている(!)。今ならまだ、この分野で新しいビジネスを起こすチャンスがあるのかもしれない。
『ベストセラーコード 「売れる文章」を見きわめる驚異のアルゴリズム』(日経BP社)
ジョディ・アーチャー&マシュー・ジョッカーズ(著)、川添節子(訳)、西内啓(解説)

『ダ・ヴィンチ・コード』、『ミレニアム』シリーズ、『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』──ベストセラー作品が売れたのには理由があった。テキスト・マイニングの第一人者が小説5,000冊のテキストを分析し、驚くべき結果=ヒットの法則を発見した。個人の“才能”“創造性”に依存すると考えられていた分野に、テクノロジーが入り込み、新しいビジネスを生み出す可能性を提言した注目作。

(3) 暦本純一の1冊:『ファスト&スロー 上・下』ダニエル・カーネマン

われわれはどうやって現実世界の状況を認識し、対処しているのか。本書によれば、人間の思考は、直感的で速い「システム1」と、意識的だが遅い「システム2」の二つのシステムから成り立っているという。瞬間的に危険を察知したり、相手の表情を読み取ったり、というような日常の活動は主にシステム1が担当する。もう一方のシステム2は熟考型で、合理的、論理的な思考ができるが認知的な負荷もかかる。そこでわれわれは無意識のうちに、できるだけ軽いシステム1でさまざまな判断をすまそうとする。しかしシステム1はヒューリスティクス(*)に頼っているため、多くの「バイアス」がある、というのが本書の骨子だ。

たとえば「利用可能性ヒューリスティック」というのがある。思い出しやすいものにより高い価値を与えてしまうバイアスだ。事故のニュースはメディアに多く流れるので、交通事故による死亡者数を心疾患による死亡者数よりも多めに見積りがちである。よく見たり聞いたりするものにはそれだけで好感度を持つ傾向がある(単純接触効果)。

「とても頭がよく、創造性には欠けるが、秩序や明確さを好み、万事がきれいに説明できるシステムを好む。人間づきあいはそれほど積極的ではない…」といった大学生がいたとして、専攻が何かを推定できるだろうか?という質問をすると、回答にはコンピュータサイエンスが上位にくるそうだ。しかし実際には所属学生数が多い教育学部かもしれない。ステレオタイプ的な人物像に誘導されて他の統計情報を見落としてしまう、「代表性ヒューリスティック」である。
本書は上下二巻の大部ながら、認知バイアスや意思決定に関わる豊富な事例をひきつつ、われわれの認知の機構が明らかにされ、最後には幸福論まで展開されており飽きることがない。著者のダニエル・カーネマンは本書でも紹介されている業績により2002年のノーベル経済学賞を受賞している。

ここで重要なのは、システム1は「悪者」ではなく、われわれに組み込まれているメカニズムだという理解だ。エラーやバイアスがあったとしても単純にそれを取り除くことはできないが、その間違い方には一定のパターンがあるということだ。本書は「巧妙ではあるが不完全な」人間の取り扱い説明書といえる。本書の知見は科学的に興味深いだけでなく、仕事の指標としてももちろん有効で、企画立案、議論、意思決定などの現実のビジネスのあらゆるプロセスに関わる(企画を通すときに、相手のシステム1、システム2の反応を予測できるだろうか?)。
インターネットでは多くの利用者が瞬間的に情報に触れて反応しているので、システム1によるバイアスがより結合・拡大する傾向にある。たとえば「炎上」は利用可能性ヒューリスティックが利用者間で連鎖していく現象とみることができる。インターネットが自由な言論の場ではなくいつのまにか巨大な認知バイアス増強装置となっているのでは、という懸念もある。ネット上で各種の情報サービスを提供したりプロモーションを行ったりする際には、受け取り手の認知機構、とくにシステム1がどのようにその情報を受け取るかに意識的になることで、より効果的な情報伝達が可能になる。受け手の立場からは、ネットの言説に不用意に誘導されることが避けられるようになる。

今後、多くの情報システムがAIによって強化されていくことは必須だが、AIのみが独立して機能するだけではなく、人間との関わり方によってその性能が大きく左右される。ロボット工学では、Human-Robot Interactionという、人間とロボットの関わり方を探求する研究分野が立ち上がっている。同様に、Hunan-AI Interactionは情報システムを考える上での普遍的な設計課題になるだろう。その際の基礎知識としても本書の知見は重要である。


*問題解決の際、簡略化されたプロセスを経て結論を得る方法。必ずしも正しい結論に達するわけではないが、結論に至るまでの時間を短縮できる。
『ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか? 上・下』(早川書房)
ダニエル・カーネマン(著)、村井章子(訳)、友野典男(解説)


「人間は自らの意思で決断し、行動する」と、多くの人は考えている。しかし、ノーベル経済学賞を受賞した認知心理学者の著者、ダニエル・カーネマンによると、人間は無意識のうちにさまざまな判断を下し、しかもそれらは不合理で誤った判断である場合が多いという。我々は、直感的で感情に根ざす「速い(=ファスト)思考」と、合理的で努力を要する「遅い(=スロー)思考」の二つにより意思決定をしている。本書では、このシステムのプロセスと、判断エラーに陥ってしまうパターンを多くの実験により解き明かしている。我々の意思とは何なのかを、改めて見つめ直させる1冊。
 
ビジネスメールマガジン(無料)

最新サービスや事例のご紹介、イベント案内、最前線の情報など、役立つ情報を配信中。

個人情報の取り扱いについて

本フォームにご入力頂いたお客さま情報は、個人情報保護法および、当社プライバシーポリシーに従い適切に管理いたします。 ソフトバンク株式会社「個人情報保護のための行動指針

お預かりしたお客さま情報は以下の目的に限り使用いたします。

  • ・弊社取り扱い製品、サービス、セミナーなどに関する情報のご案内
  • ・お問い合わせや資料請求への対応
  • ・今後の販売活動のためのマーケティング・分析活動

お預かりしたお客さま情報はお客さまご本人から、当社の運営上支障が無い範囲で閲覧、修正、削除を要求することができます。その場合はお問い合わせ先までご連絡いただけますようお願いいたします。

その他のTOPICS