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少子高齢化によって生産人口が減少するなか、どのように産業やコミュニティを維持・発展させていくか──現在さまざまな課題に直面する地方で、先端テクノロジーを使った取り組みが行われている。
いまの地方を取り巻いているのは、東京などの都市部にもいずれ訪れるであろう状況だ。未来の変革は、ローカルから始まっている。(全7回連載)

山野 智久(やまの ともひさ)
アソビュー株式会社代表。日本最大級の遊びのマーケットプレイス「asoview!(アソビュー)」を運営。イノベーティブなソリューションによって、地域事業の生産性の向上に貢献し、地方創生を実現することをミッションとした「一般社団法人熱意ある地方創生ベンチャー連合」共同代表理事。自治体の観光分野のアドバイザリーを歴任。
岡本 祐輝(おかもと ゆうき)
美園タウンマネジメント協会の事務局を担う一般社団法人美園タウンマネジメントの専務理事として、アーバンデザインセンターみその(UDCMi)副センター長も務める。東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻(修士課程)修了後、設計事務所、東京大学先端科学技術研究センター、柏市まちづくり公社を経て、2015年7月より現職。
有山 信之(ありやま のぶゆき)
1996年、旧大宮市役所に入庁。さいたま市環境局環境共生部・環境未来都市推進課係長。主に次世代自動車・スマートエネルギー特区事業と、美園地区を中心としたスマートシティ構築事業を担う。
さいたま市東南部に広がる美園地区。埼玉高速鉄道埼玉スタジアム線の終点・浦和美園駅を中心とした新都市開発エリアだ。宅地開発や商業施設出店に伴い人口も増加しているが、日常の生活動線をつなぐ公共交通が十分でなく、住民の移動手段はマイカーが多くなっている。
そうした状況を改善すべく、同地区で現在進められているのがモビリティシェアリング事業の「エコモビ:eco mobility sharing」。IoT技術を用いた最先端のシェアサイクルシステムを生活の足として根付かせ、さらには、単なる移動手段にとどまらない新たな価値を生み出すことまで見据えている。
美園地区は首都圏郊外25km圏の新興住宅地。2001年に開業した埼玉高速鉄道・浦和美園駅を中心に、新都市開発が行われてきた。
元々は農地が広がっていた約320haの土地で土地区画整理事業が行われ、宅地造成や、公園・道路の整備などが進んできた。事業区域には「みそのウイングシティ」の愛称もつけられ、地域のランドマーク「埼玉スタジアム2○○2」が立地するほか、「イオンモール浦和美園」などの大型商業施設も進出している。
2015年には、西口駅前に公・民・学が連携するまちづくり拠点施設「アーバンデザインセンターみその(UDCMi)」もオープン。UDCMiを拠点に活動を進める「美園タウンマネジメント協会」には、現在40以上の企業や大学などが参画し、さまざまなプロジェクトを進めている。
その一つが、ソフトバンクと協業で進めるシェアサイクルサービス「エコモビ powerd by HELLOCYCLING※」である。美園地区にも路線バスは整備されているものの、生活圏全域をカバーするには至らず、住民の「生活の足」としては心もとない。
※OpenStreet株式会社とソフトバンク株式会社が提供する自転車シェアリングシステムサービス。スマートフォンを利用して登録された駐輪場「ステーション」の検索、自転車の利用予約、決済までの一連の手続きを簡単に行うことができる。

そこで、シェアサイクルだ。スマホやICカードひとつで利用でき、専用のステーションで借りられ、乗り捨てもできる。
美園タウンマネジメント協会は2017年、この新しい「生活の足」を美園地区に投入した。現在は実証実験の段階で、ステーションも駅前の1カ所のみだが、利用状況を加味しつつ自転車の台数、ステーションの数を増やしていく予定だという。
今回はその取り組みの背景や狙い、今後の可能性について、同事業の自治体・協会側のキーマンと、NewsPicksプロピッカーでもある地方創生の仕掛け人・山野智久氏の対談形式で掘り下げる。

「クルマ依存」からの脱却を目指す

最初に、美園地区でシェアサイクルを導入された狙いを教えていただけますか。
岡本:現在、浦和美園駅の周辺は実質的な「クルマ依存社会」になっていて、マンションにお住まいの方でも2~3台持ちは当たり前。徒歩15分のイオンモールへ行くのにもマイカーを使っている状況です。お世辞にもエコに良いとは言えず、持続可能な都市づくりには正直逆行しています。
もちろんコミュニティバスなどの公共交通を充実させていく検討は必要ですが、より環境負荷の少ない車両ということで、自転車の利用を普及・促進させることも重要だと考えています。

有山:自転車なら環境面はもちろん、健康にもいい。美園タウンマネジメント協会では健幸増進プログラムとして、歩くことや自転車に乗って活動することでICカード型電子マネーにポイントが付与される実証実験も進めています。
世界的に低炭素化の流れがあっても、いきなりCO2の排出量を減らそうと言ったところで、住民に受け入れていただくことは難しい。そこで、切り口を変えて、まずはこうした取り組みをきっかけに、自転車への乗り換えを促進していきたいと考えています。
結果として「みなさんのおかげでこれだけCO2が減りましたよ」とお伝えする流れの方が望ましいのかなと思いますね。
美園地区の場合はシェアサイクルを「生活の足」として、街の人がメインの移動手段に活用することを目指しているわけですよね。狙い通り、住民の方に利用されていますか?
岡本:個別の利用者について居住地などの詳細なパーソナルデータを取っているわけではありませんが、利用状況から推測する限り、地域にお住まいの方が頻繁に利用してくれていると思います。
たとえば、チャイルドシート付きの車両も運用していますが、レンタル頻度が他の車両よりも高い。おそらく駅から保育園への送り迎えに使っているヘビーユーザーの方がいらっしゃるのではないかと思います。
山野:自転車は何台あるんですか?

岡本:16台です。まだ初期段階なので、これから増やしていく予定です。

山野:その規模で、すでにヘビーユーザーが付いているのはすごいですね。ただ、ユーザーって離れるのも早くて、使いたい時に全部貸し出されていたりするとすぐに使わなくなってしまう。コストとの兼ね合いもあって簡単ではないと思いますが、不便を感じさせない状態まで整備することが重要ですよね。

ステーションが増えれば、ライフスタイルも変わる

こうした郊外都市の「生活の足」としてのシェアサイクルについて、山野さんはどう思われますか。
山野:ニーズは十分あると思います。現に中国の都市部では、まさに生活の足としてのシェア自転車が爆発的に普及していますよね。
少し前に四川に行ったのですが、自転車を保管するステーションすらなくて、みんな街中の路肩に止めてある自転車を借り、そのへんに乗り捨てていく。便利すぎて、ちょっとした距離でもガンガン使うんですよ。ライフスタイルを変えるところまで進んでいるのが衝撃でしたね。
ただ、日本の場合、都市部は道も狭いですし、安全面や法規制などを考えると、やはりステーションをいかに増やしていくかが重要になってきますよね。

岡本:そうですね。現在は事業がスタートしたばかりで、ステーションは浦和美園駅東口の1カ所のみですが、街中の至るところに乗り降りできるポイントを増やしていきたいと考えています。
エコモビでは車両自体に認証端末を載せるタイプのシステムを採用していますので、ステーション側に大がかりな機材を用意する必要はありません。ちょっとした空きスペースにもステーションを開設できるのが強みですね。

有山:加えて、現場で事業を担う一般社団法人美園タウンマネジメントは、都市再生特措法に基づく都市再生推進法人に指定されているため、特例措置を用いて歩道などにステーションを設置することができるんです。そのため、場所代のコストを抑えつつステーション数を増やしていくことが可能です。
街の交通インフラとして確立させるためには、どれくらいの間隔でステーションを整備する必要があるでしょうか。
岡本:人がストレスなく歩いて移動できる距離は「半径500mまで」と言われています。理想としては200~300m間隔でステーションを設置できるといいですよね。
いつも利用しているステーションに自転車がなくても、200m先ならすぐに行けます。それくらい密に整備できれば、利用者も爆発的に広がって、“美園”というまち自体のデザインも変わっていく可能性があります。

有山:あとは自転車に乗って走りたくなる、お出かけしたくなるようなまちづくりも大切ですね。自転車専用レーンの整備や、周辺の観光名所への誘導などでつながっていく仕掛けを作ることも検討していきたい。
たとえば、浦和美園駅の西方2kmくらいに「見沼田んぼ」という1200haを超える緑地空間が広がっています。現状はアクセスが悪いため観光資源として十分に生かし切れていませんが、自転車があれば気軽に行ってみようかなという気持ちになっていただけるのではないでしょうか。見沼田んぼと駅周辺の間にもサイクルサポート拠点的なステーション設置も検討したいです。

山野:見沼田んぼ……いま検索してみたんですけど、いいところですね! 都心の近くにこんなにキレイな場所があったなんて知りませんでした。農業体験や収穫体験を絡めれば、人気が出そうです。

有山:そうですね、まさにそういう方向性を目指していきたい。

山野:近年は、「何をやるか」よりも「どんな思い出を得るか」という方向に人々の価値観がシフトしています。レジャーも年に1~2回だけ遠出するよりは、毎月1回、近場でもいいから自分にとって特別な時間を過ごしたいという志向に変わってきています。
そういう意味では、見沼田んぼみたいな場所に気軽に出かけられる、日常生活の延長に1日ぼーっと過ごせる「ちょっとした幸せ」がある環境って、とても恵まれていますよね。シェアサイクルと組み合わせることで、すごく可能性が広がると思います。

「IoT×まちづくり」で暮らしはどう変わるのか

最後に、これからの「郊外都市のまちづくり」についてお伺いします。UDCMiでは「住民のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を上げ、住みやすい街をつくる」ことを目標に掲げていますが、そのターゲットはやはり子育て世代ですか。
有山:メインはそうですね。子育て世代が住むにあたって何が必要なのか、どのようなライフスタイルを望み、その実現を支援するどんなサービスがあれば住んでくれるのか。以前は仮定や想像に基づいてやっていたところもありますが、今はSNSもありますから、住民の声がより拾いやすくなっています。
さまざまな角度から分析し、本当に求められる事業を模索しているところです。そのためにも、より多くの民間企業からお話を聞き、連携していきたいと考えています。

山野:民間企業と地方行政って、水と油のように考えられがちなのですが、お互いをもっと活用したほうがいいですよね。特に公共サービスの分野ってIT化が非常に遅れていて、地方に行くほど労働生産性も低くなる。
そこで、僕らのようなベンチャーが持っているリソースやアイデア、テクノロジーを活用すれば、お金をそんなにかけなくても、今以上のサービスができるようになります。
どのようなことが、可能になるのでしょうか?
有山:一つは行政コスト・社会コストの削減ですね。たとえば、シェアサイクルにカメラを取り付ければ、街中を走る自転車が自動的にさまざまな情報を集めてくれる。道路が陥没していたらすぐにGPSで場所を特定し、補修に向かうことができる。今後はそんな使い方もできるようになると思います。

岡本:あとはいくつかの事業を横つなぎして、新しい価値を生み出していくこと。たとえば、浦和美園駅構内には配送荷物などを受け取れる『オープン型宅配ロッカー』が設置されていますが、これとシェアサイクルを結びつけることもできるでしょう。
スマホで夕飯の材料を買ったら、駅に着く時間に合わせてロッカーに届く。同時に自転車の予約も終わっている。さらに、自転車を解錠した時点で自動的に保育園に連絡が行き、到着予定時刻に合わせて、さっと子どもを連れて帰ることができる。
そんな、シームレスなサービスの提供が可能になれば、ムダな時間を極力減らしたい共働き世帯にも積極的に住みたいと思ってもらえるのではないでしょうか。
浦和美園駅前には駐車場が充実している。駅までマイカーで行き、そこから電車に乗り換えて通勤する住民の需要があるためだ。
ある意味、地域のニーズにはかなっているが、ロードサイドには商店や飲食店の出店が進むものの、駅前にはほとんど見当たらず、貴重な空間を有効利用できているとは言い難い。自転車移動が浸透しクルマ依存型から脱却できれば、駅前の土地を駐車場ではなく別の用途で利用することもできるだろう。
さいたま市と美園タウンマネジメント協会が取り組むシェアサイクルは、単なる移動手段の提供にとどまらず、郊外住宅地のまちづくりという観点においても重要な施策といえそうだ。
■本記事はNewsPicks Brand Designの制作のもと、2017年10月25日にNewsPicks上に掲載されたものです。
 
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