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少子高齢化によって生産人口が減少するなか、どのように産業やコミュニティを維持・発展させていくか──現在さまざまな課題に直面する地方で、先端テクノロジーを使った取り組みが行われている。
いまの地方を取り巻いているのは、東京などの都市部にもいずれ訪れるであろう状況だ。未来の変革は、ローカルから始まっている。(全7回連載)

川原 圭博(かわはら よしひろ)
東京大学大学院情報理工学系研究科准教授。2005年に東京大学大学院情報理工学系研究科博士課程修了、博士(情報理工学)。 東京大学助手、助教を経て、2010年同講師、2013年同准教授に。2011から2013年まで、ジョージア工科大学客員研究員及びマサチューセッツ工科大学「Media Lab」の客員教員を兼任。印刷エレクトロニクスを手がけるElephantech社、農業センシング事業を行うSenSproutは同研究室からのスピンオフベンチャー企業。

河野 一行(こうの かずゆき)
藤枝市副市長。同市企画財政部長、静岡県企画広報部政策企画局参事などを経て2015年4月より現職。
大都市への人口流出は、地方が抱える共通の課題。とくに、地域を活性化させるためには進学や就職などで地元を離れた若者を呼び戻す施策が重要だ。たとえば、結婚・出産を機に「地元で子育てをしたい」と思えるような魅力を創出すること。地域の未来を担う子育て世代に選ばれる街づくりは、自治体が担うべき役割の一つといえる。
そのカギの一つが、テクノロジーだ。静岡県藤枝市では今、ICTの力を駆使して街の魅力を向上させ、「真に選ばれるまち」を築くための新たなプロジェクトが進んでいる。将来的な人口減少を見据え、いち早く始動した藤枝市の取り組みは、これからの地方都市が向かうべき道標になるかもしれない。
静岡県藤枝市。県庁所在地・静岡市に隣接するベッドタウンで、人口14万6000人は県内6位。JR藤枝駅を中心とした街は生活利便性が高く、北部の山間地帯はキャンプやグラススキーなどのアウトドアが楽しめる。キャッチフレーズは「ほどよく、都会。ほどよく、田舎。」
人口減少が全国ワースト3の静岡県にありながら、藤枝市の人口は2010~2015年の5年間で1500人増加している。課題は、進学により市外に転出した若者が戻ってこないこと。10年、20年先を見据えると、子育て世代のUターン・Iターンを獲得する必要がある。
市のバリューをさらに上げるべく、藤枝市が打ち出した新たな施策の一つが、IoTの活用だ。2016年6月にソフトバンクと包括連携協定を結び、通信プラットフォームLPWA(LoRaWAN※)を、接続から半年間無償で提供する。民間企業の参画を呼び掛け、住民生活の向上につながるさまざまな実証実験をスタートさせている。
※LoRaWAN:LPWA(Low Power Wide Area)ネットワーク通信技術の一つ。低コスト・低消費電力かつ長距離通信が可能で、IoTサービスの利用に適したオープンな通信規格として注目されている。

今回はその取り組みの背景や狙い、今後の展望について、藤枝市副市長の河野一行氏、そして、東京大学大学院情報理工学系研究科准教授の川原圭博氏に語ってもらった。

次世代に、新たな通信プラットフォームを

最初に、藤枝市が抱える課題についてお聞かせください。
河野:藤枝市の人口は、日本の人口がピークを越えた2010年からの5年間で1500人増えています。しかし、18歳から30歳の若者、とくに女性の定住率が低く、進学や就職で地元を離れた人たちがなかなか帰って来てくれないという課題を抱えています。そこで、10年、20年先を見据え、若者を中心に人口を増やしていくための街づくりに取り組んでいます。
若年人口を増やすためには、何が必要とお考えですか。
河野:まず必要なのは市内の産業を盛り上げ、新たな事業者を増やすことだと考えています。藤枝市内には事業者が少なく、隣の静岡市に働きに出ていく人が多い。20代、30代の定住者を増やすために、まずは街に雇用を生み、藤枝を暮らしやすくする土台作りが必要です。
そうした産業の呼び水になるのが、新しいテクノロジーを活用するための通信インフラである、と。
河野:そうです。藤枝市では昨年6月にソフトバンクと包括連携協定を結び、LoRaWANという通信プラットフォームを構築してきました。そのプラットフォームを民間企業に活用してもらい、まずは実証実験というフェーズから新たな事業を模索しているところです。具体的にはICT、IoT技術を活用したモニタリングによる行政や農業の効率化、防災・減災システムの構築、子どもの見守りシステムなどが挙げられます。

川原:LoRaWANを無償提供するというのは素晴らしい取り組みです。私も自治体からIoTのためのセンサーを使ったインフラモニタリングについて相談を受けることがありますが、その際に問題になるのが無線通信のコストなんです。
携帯電話の電波は速くてつながりやすいのはいいのですが、多くの情報を遠くに届けようとする膨大なエネルギーで電池の減りが早く、設置運用コストも料金コストも膨らみます。その点、LoRaWANは通信速度と引き換えに非常に少ない電力で情報をやりとりできる。
IoTを地域に実装するためには、たくさんの端末を常時通信させる必要があります。たとえば農地に設置するセンサーなど、あらゆるモノを通信させるために、LoRaWANをはじめとするLPWAのインフラは最適なんです。

河野:まさに、少ないコストで通信網を整備できることは大きなポイントでした。携帯電話の基地局設置に比べ、LoRaWANは10分の1以下のコストで市内全域をおおよそカバーできるという点に魅力を感じました。現在、市内では35基のLoRaWANの基地局が稼働していて、人が居住しているエリアはほぼ網羅しています。実証実験を行ううえでも、非常に使いやすいプラットフォームが構築されているのではないかと思います。

IoTが街づくりにもたらす可能性とは

LoRaWANのようなIoT技術は、具体的にどんな事業に生かせるのでしょうか。
川原: あらゆる分野に活用できますが、私が今取り組んでいるのは農業の分野です。
農業というのは経験がものをいい、たとえば水やり一つとっても土の中の水分量や肥料の状態を見て、分量やタイミングを調整する必要があります。そこで、土壌の状態をセンサーで検知し、ネットワークでモニタリングできるシステムを研究しています。
河野:それは素晴らしい。藤枝市ではお茶の栽培が盛んなのですが、そのシステムを使えばより効率化できそうですね。

川原:十分に生かせると思います。茶畑は斜面状になっているので、水の流れ方次第で肥料がたまりやすいところ、たまりにくいところのばらつきがでてきます。
お茶農家のコストの4分の1は肥料代といわれていますから、必要な肥料の量を正確にモニタリングできれば相当なコストダウンにつながる。お茶の品質と収穫量を維持しつつ、肥料の量を最大4割程度削減することができます。

河野:そうなると、より低いコストで品質の高いお茶が栽培できますね。そのシステムを取り入れるための安価な通信環境が整備されていて、どの地域よりも有利な条件で農業ができるとなると、就農者の増加も期待できます。
では、農業以外の分野ではいかがでしょうか。先ほど、副市長が防災・減災などを挙げられていましたが、他にどんな使い方ができるとお考えですか。
川原:ひとつは、行政の効率化とコストダウンですね。たとえば、市が管理する橋や道路って膨大にあると思いますが、それをくまなく担当者が回ってチェックするのは大変な労力です。
しかし、橋に加速度センサーを取り付け、異変を遠隔で一括モニタリングできるようになれば、最初に直すべき場所の優先順位も容易につけられるので非常に効率的です。

河野:実際に藤枝市で進められているものとしては、河川の氾濫(はんらん)状況をモニタリングする防災・減災事業や、北部の山間地帯での鳥獣害対策があります。
今、イノシシやサルが市街地に降りてきて、どんどん頭もよくなっています。それを捕獲するわなに、LPWA対応センサーを活用するシステムの実証実験が進んでいます。
より身近なところでは、GPS付きのデバイスで子どもの位置を把握し、登下校をお知らせするサービスなどもあります。こうした、安心・安全への取り組みが子育て世帯に魅力的に映ることで、定住者の増加により期待できるのではと考えています。

街づくりのアイデア・ノウハウが自然に集まる

これから、藤枝市のようにIoTを活用した街づくりに力を入れる地方都市は増えていくものと思われます。そのなかで、藤枝市の優位性を教えていただけますか。
河野: やはりLoRaWANプラットフォームを全国に先駆けて提供したことが、大きな武器になるのではないでしょうか。現在、本当に多くの民間企業から実証実験をやりたいという声が寄せられていて、さまざまなアイデアや情報が自然に集まってきています。
これまで考えもしなかった施策、やりたくてもできなかった施策が一気に進み始め、新しい街づくりのノウハウが日々蓄積されています。それは、この先大きなアドバンテージになるでしょう。

川原:IoTが本領を発揮するのは、ローコストな通信環境が整ったときです。インフラが整えば、幅広い分野でさまざまなモノがインターネットに接続する時代が訪れます。
だからこそ、いち早くLoRaWANを無償提供した藤枝市に、ジャンルを問わずあらゆるアイデアを持った打ち手が集まってくる。新たな産業も生まれますし、藤枝市の場合は特に市民生活の向上につながるものに力を入れていますから、地元の人たちにも受け入れられやすいですよね。
河野:とはいえ、結果を出すのはこれからです。実証実験は始まったばかりですし、これをいかに事業として定着させるかも重要なポイントです。結果、市民にとってメリットのあるものにしていかなければなりません。
今回の実証実験を通じて、地元産業と市外企業のコラボレーションが生まれ、最先端の技術導入のきっかけになっています。これを、一部の市街地や産業だけで終わらせず、地域全体が発展するような方向に進めていきたいと考えています。
LoRaWANプラットフォームを使った藤枝市の実証実験は、2017年8月からスタートしている。多数の応募があったため、同月から10月末まで事業者の2次募集が実施されているという。今後は3年間にわたって、実証実験のフェーズから「事業」として定着させていく道を模索していくそうだ。
「環境は整いました、これからが本番」。河野副市長は力を込める。藤枝市の取り組みは、地方都市再興のロールモデルになり得るか。全国の自治体が注目している。
■本記事はNewsPicks Brand Designの制作のもと、2017年10月26日にNewsPicks上に掲載されたものです。
 
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