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前編にて紹介したSansan株式会社を皮切りとして、神山町にはその後も東京・大阪などの大都市圏から、主にIT関連の企業が続々とサテライトオフィスを開設。現在は16社にまで増えている。この動きは神山町だけに留まらず、徳島県全体に波及。南部海沿いの美波町、さらには西部の美馬市・三好市などのにし阿波地域なども含めた県全体では56社が進出しており、サテライトオフィス誘致の成功例として取り上げられることも多い。

次に神山町のNPO法人グリーンバレーの理事長 大南信也氏と、神山町にサテライトオフィスを構える株式会社プラットイーズの取締役会長 隅田徹氏に、サテライトオフィス誘致の裏側を聞いた。

山間のサテライトオフィス集積地・徳島県神山町の「今」
【前編】希少価値につながる働き方、神山町のサテライトオフィスで働くこと
大南 信也氏
認定特定非営利活動法人 グリーンバレー 理事長
隅田 徹氏
株式会社プラットイーズ 取締役会長

いろいろやるうちに物事が「自生」していった

大南さんの後ろに映る「Karaoke Torii(カラオケ鳥居)」は「アーティスト・イン・レジデンス」活動の一環である海外のアーティストの作品。スマートフォンなどをBluetooth接続することで、実際にスピーカーから音が流れる。
神山町へのサテライトオフィス誘致成功のキーマンといえるのが、NPO法人グリーンバレーの理事長を務める大南信也氏だ。その活動の歴史は長い。成功は決して一足飛びにあったものではないのだ。

米国の大学を卒業した大南氏は、生まれ故郷である神山町に戻ってから、草の根の国際交流活動を推進。1999年からは前述した、海外の芸術家を町に招聘し、滞在中の作品制作を支援する「アーティスト・イン・レジデンス」の活動を開始。2004年に「日本の田舎をステキに変える!」をミッションに掲げ、NPO法人グリーンバレーを立ち上げた。

「目指すのは『クリエイティブな田舎』です。田舎というと、従来は高齢者が細々と農業をやっているというイメージ。そうではなく、これまで農村にいなかったような人たちが続々とやって来て、農業だけではなくそれ以外のことに挑戦できるようにすることが必要なのではないかと思ったのです」。大南氏はこう語る。
この目標を達成すべく、2008年には「ワーク・イン・レジデンス」も開始した。これは、神山町が将来必要とする人材を、逆指名して移住を募るもの。「この空き家はパン屋さんをオープンする人にだけ貸します」といった具合に、移住希望者をピンポイントで募るのだ。従来、受け入れ側となる地域は言葉を発することがなかったため、やってくる人もバラバラ。しかし、人材を指名することによってより主体的に「町をデザインする」ことが可能になっていった。

さらに、クリエイターの移住を促すためにトライアルの場を作ろうと、グリーンバレーの活動に興味を持っていた建築家と古民家の再生プロジェクトを進めていたところ、前編のとおり、その建築家がSansanの寺田社長の学生時代の友人で、同社がこの町にサテライトオフフィスを開くことになったというわけだ。
「そもそも僕らは、サテライトオフィスなんていう言葉すら知らなかった。いろいろなことをやっているうちに物事が『自生』していった感じですね」と大南氏は言う。

素人が関わるからこそブレイクスルーが起きる

神山町には今や、IT企業のサテライトオフィスだけでなく、地場の食材を使ったビストロやパン屋なども誕生。誰も住んでいなかった古民家が続々と店舗やオフィスに変わりつつある。町で出る間伐材を活用した「しずくプロジェクト」のように、地域住民と新たに移住してきた住人の「協働」も生まれてきた。このプロジェクトは、もともと大阪でデザイン会社を経営していて、神山町にサテライトオフィスを開いて移住したデザイナーの男性が始めたもの。神山町の緑はほぼ全て杉の人工林だが、間伐などの手入れが行き届いていなかったことから土の保水力が弱まり、町を流れる鮎喰川(あくいがわ)の水量は、30年前の約3割にまで減っているそう。そこで間伐をするとともに、そこで出た間伐材を活用した食器を商品化するというものだ。一般的な木の器は、年輪が縦模様に出るように材を使うが、この器では横模様に重なるように柾目(まさめ)になっているのが特徴だ。
「この加工にしても、もともと木に詳しい人なら、こういう加工をしようという発想すら出てこない。素人が関わるからこそ違う形が生まれるわけです。状況を知らないまっさらな状態で入ってきた人が地域に交わっていくことでブレイクスルーが起きる。ICTにしても、効率化だけでなく、プラスαをすることで社会にインパクトを与えることができる。そこに地方創生のための、新しい鉱脈が見つかるかもしれません」

神山町には「変化を面白がる風土」があった

神山町にサテライトオフィスを置いている企業の代表例として、Sansanと並んでよく知られているのが、東京都渋谷区に本社があり、テレビ番組データを放送局に配信する事業を手掛けている株式会社プラットイーズだ。同社がサテライトオフィスを開設したのは2013年7月。その「えんがわオフィス」は、築90年の古民家を改装したガラス張りの洒落た建物だ。四方には縁側が張り巡らされており、付近に暮らす地元の人とのコミュニケーションの場にもなっている。また、ここはプラットイーズのサテライトオフィスであるとともに、この地に設立された4K、8K映像のデジタルアーカイブ事業を行う企業「株式会社えんがわ」の本社でもある。
もともとプラットイーズが神山町にサテライトオフィスを開設したのは、BCP(事業継続計画)のためだった。
「災害などが起きた際に、拠点が1つだけでは事業が止まってしまう。そこでバックアップオフィスを作ろうというのが当初の考え。同時に、地方に拠点を設けることで、新しい働き方を提示して特色を出し、人材確保につなげたいという思いもありました」と、プラットイーズの会長・えんがわの社長を務める隅田徹氏は語る。

北は北海道から南は沖縄まで、日本全国を20箇所以上巡り、選択したのが神山町だった。その理由を、隅田氏は次のように振り返る。
「決め手は、ある意味での『ユルさ』でしたね。他の候補地は、全て自治体が窓口で、真面目すぎる印象で。クリエイティブな仕事をするには、もう少し遊び心のある町のほうがいいなと思ったんです。その点、神山町は、NPO法人であるグリーンバレーが誘致活動をしていて。大南さんと話しても、決して『来てくれ』とは言わないんですよ。『来たければどうぞ』という感じで。『住民票を移してくれ』とか、『骨を埋めてくれ』みたいなことも一切なくて。あくまで対等で、かつ遊び心がある点が気に入りました。

また、この町には『変化を面白がる風土』もありました。地域によっては、自治体の役人は外部から人を入れることに積極的でも、地元の人は変化を望んでいないところもあるんですよね。神山町の場合は、草の根から変化を楽しもうという人がそこそこの数いたのがポイントでしたね」

給与も昇進も東京にいるメンバーと全く同じ

現在、「えんがわオフィス」では、プラットイーズの社員が14人、えんがわの社員が8人、合わせて22人が常時働いている。もちろん東京のオフィスで働く社員がえんがわオフィスに来て、しばらく働くということも頻繁だ。
サテライトオフィスでも本社でも仕事内容は変わらず、サテライトオフィスと本社の役割分担も特にない。「ただ仕事をしている場所が違うだけですね。フリーアドレスのオフィスが離れた場所にある感じです」と隅田氏。給与も昇進も東京にいるメンバーと全く同じだという。
東京オフィスとのやり取りには、Sansanと同様、共有ソフトやチャットツールをフルに活用。今では東京オフィスにいるメンバーどうしも、会議などは自席でチャットツールを用いて行うことが多く、わざわざ集まって行うことはほとんどなくなったそうだ。

クライアントとのやり取りも、もともとインターネットを使って行うことが多かったため特に支障はない。「営業もほぼリモートで行っていますが、50代以上のお客さまだと従来型の実際に顔を合わせての営業を好むケースもあるので、そうしたお客さまは東京の営業チームが担当しています」と隅田氏は語る。

若い人ほど「地方のいい環境で働きたい」という志向が強い

サテライトオフィス開設の効果として感じているのは、当初の狙いのひとつでもあった人材の確保だ。「若い人ほどむしろ『地方のいい環境で働きたい』という志向が強く、当社での働き方に興味を持ってくれます」と隅田氏。実際、今、えんがわオフィスにいる社員も、多くが最初からここで働きたいと希望して入ってきた社員。神山町出身の社員や、徳島県にUターンで戻ってきた社員も複数名おり、地元に雇用を生み出す効果も出ている。
隅田氏は2015年7月、NPO法人グリーンバレーが運営するコワーキングスペース「神山バレー・サテライトオフィス・コンプレックス」の向かいに、サテライトオフィスでの働き方を体験するための宿「WEEK神山」をオープン。さらに、地元の城西高等学校神山分校や町役場などを会場とした「4K徳島国際映画祭」の開催に中心となって取り組むなど、神山町のさらなる活性化に尽力している。隅田氏自身、神山町での暮らしに魅了され、同町に移住。月に一度程度、東京オフィスに行く以外は神山町で過ごしている。

「働き方改革が話題になっていますが、在宅勤務ではどうしても仕事の効率が3割くらいは落ちる。その点、サテライトオフィスは気分を変えて集中して業務に取り組むことができ、効率向上にも非常に有効だと思います。現在、当社では3つ目のオフィスを東京の郊外につくることを検討中。都心・郊外・地方のいずれの働き場所も選べるようにして、社員により多様な働き方を提供したいですね」

「何をしてくれるか?」ではなく「一緒にワクワクできること」を考える

サテライトオフィス誘致を行う地方自治体は多いが、なぜ神山町の誘致活動は成功しているのか? 要因として、前出NPO法人グリーンバレーの理事長の大南氏も、神山町の誘致活動独特の「ユルさ」を挙げる。
「確かに私はサテライトオフィス誘致を検討する企業に『来てくれ』と言ったことは一度もありません。隅田さんにも言っていないし、Sansanの寺田社長にも、『地域貢献など考えずに、あなたの会社の本業がここで成り立つことを示してくれればいい』とだけ言いました。そういうユルさがクリエイティビティを生むと思うんです」

 誘致する地方は、どうしても進出してくる企業に「何をしてくれるのか?」と期待することになりがちだ。そうではなく、もっと自由に発想し、「お互いにとってワクワクできること」を一緒に考えたほうが面白いし、人も集まる―。それが大南氏の基本的な考え方だ。
「心がけているのは『枠を作らない』こと。枠を作ると、そのサイズのものしか生まれない。アイデアを持っている人に謙虚に向き合うことが大事です。自分たちが理解できないからやめろ、ではなく、『じゃあとりあえずやってみて』と。それでダメだったらやめればいいじゃないですか」

NPO法人グリーンバレーは、リーダーシップの取り方も独特だ。リーダー的な人が1人だけでなく複数おり、それぞれが得意分野を担当する。「そうすれば、苦手なことや嫌なことはせずに、得意なことだけに集中できるでしょう?」と大南氏は柔和な笑顔を見せながら語る。
現在は移住希望者の数に対し、提供できる古民家の数が足りず、待ってもらっている状態。これについても「あまり急激に受け入れると、もともと住んでいる地元の人との乖(かい)離が生まれるかもしれない。なので、このくらいのペースでいいのかもしれませんね」と大南氏。また、今後の展開として、工業高等専門学校開設の構想も浮上している。画期的なものを神山発で生み出すには、人づくりが欠かせないと考えるからだ。「クリエイティブな田舎」から、これからどんなものが発信されるのか。神山町のこれからの動きにも注目し続けたい。
取材日:2017年12月5日
山間のサテライトオフィス集積地・徳島県神山町の「今」
 
【前編】希少価値につながる働き方、神山町のサテライトオフィスで働くこと
https://tm.softbank.jp/future_stride/topics/20180125/
関連リンク
 
自治体・公共向けソリューションページ「ぱわふる」
徳島県特集記事「とくしまサテライトオフィスプロジェクト」
https://tm.softbank.jp/public/introduction/tokushima/satellite-office/
 
認定特定非営利活動法人グリーンバレー
http://www.in-kamiyama.jp/
 
株式会社プラットイーズ
https://www.plat-ease.co.jp/
 
株式会社えんがわ
http://engawa-office.com/
 
徳島サテライトオフィス・プロモーションサイト
http://tokushima-workingstyles.com/home.html
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