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2012年に年間835万人だった訪日外国人観光客数は、2016年に2,400万人を突破(図表1)。政府は東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下、2020年東京大会)が開催される2020年に4,000万人、2030年には6,000万人の目標を掲げ、観光産業を「GDP600兆円に向けた成長エンジン」(安倍首相)と位置づけている。
現在、「明日の日本を支える観光ビジョン」(2016年3月策定)のもと、観光先進国に向けたさまざまな取り組みが行われているが、「世界が訪れたくなる日本」となるには、すべての旅行者がストレスなく、快適に観光を満喫できる“おもてなし環境 “の整備が必須となる。

総務省は、2015年に「2020年に向けた社会全体のICT化アクションプラン」(以下、アクションプラン)を公表。このアクションプランでは、世界各国から人が訪れる2020年東京大会に向けて、ICTのインフラおよびサービスの高度化を図ることで、訪日外国人に対する“おもてなし”レベルを向上させ、最先端のICTを世界に発信しようとしている。

2020年東京大会まで1,000日を切った今、ICTを活用した“おもてなし”の向上に向けて、どんな施策が実行されているのか。そして、ICT化によって我々国民の利便性はどう高まるのか。アクションプランを推進する総務省の荒井優美氏(情報流通行政局情報通信政策課課長補佐)と、2016年に設立された一般社団法人「おもてなしICT協議会」の副理事長・梅本和典氏にこれまでの取り組みと今後の課題、さらには将来的な展望について聞いた。
荒井 優美氏(あらい ゆみ)
総務省
情報流通行政局情報通信政策課 課長補佐
梅本 和典氏(うめもと かずのり)
1951年生まれ。74年、ジャスコ(現イオン)入社。同社ストアオペレーション本部長、専務執行役を経て、2009年、イオンアイビス代表取締役社長に就任。以後、イオン執行役 サービス・専門店・電子マネー事業最高経営責任者、イオンディライト株式会社代表取締役社長、イオンリテール代表取締役社長、会長を歴任。
2016年5月より、おもてなしICT協議会の副理事長。

総務省が推進するICT化に向けたアクションプランの趣旨と概要についてお聞かせください。

荒井氏:2020年東京大会は、日本のICTに関わるサービスやインフラの高度化を図り、それを世界に発信する絶好の機会として期待されています。
総務省では、東京大会後の持続的成長も見据えて「2020年に向けた社会全体のICT化推進に関する懇談会」を立ち上げましたが、そこで議論されて、2015年7月に公表されたのが、ICT化に向けたアクションプラン(図表2)です。
アクションプランは「言葉の壁をなくす多言語音声翻訳システムの高度化」や「情報の壁をなくすデジタルサイネージの機能拡大」、「接続の壁をなくす無線LAN環境の整備促進」など、社会にあるさまざまな壁をなくしていこうという取り組みのほかに、「日本の魅力を海外に発信する放送コンテンツの海外展開」や「サイバーセキュリティの強化」など、分野別に構成されておりまして、現在、各ワーキンググループ(WG)で実現に向けた検討を重ねているところです。
また、これらの分野を横断的に繋ぐアクションプランもあり、その1つである「都市サービスの高度化」では、交通系ICカードやスマートフォンとクラウド基盤を連携させることで、利便性の向上を実感できるサービスを実現することを目指しています。具体的に申しますと、例えば訪日外国人の方であればどういう言語を使うのか、高齢者や障がい者の方の場合はどれくらいのモビリティがあるか。そういった個人の属性を交通系のICカードなどに紐付けることによって、属性や位置に応じた最適な情報やサービスを入手できるようにしていこうというものです。
2016年度からは、これらを実現するための「IoTおもてなしクラウド事業」が始まりまして、梅本さんがいらっしゃる「おもてなしICT協議会」をはじめ、各方面の協力をいただきながら、社会実装に向けた実証事業を行っております。

2016年に設立された「おもてなしICT協議会」はどのようなミッションで活動されているのでしょう。

梅本氏:我々は、個別分野のアクションプランを推進する組織体からあがってきた成果物を横断的に展開する「都市サービス高度化WG」のもとで、社会実装に向けた取り組みを進めています。
具体的には、総務省から出された要求仕様書に従って、実証事業などの調査研究を行っているのですが、当協議会には日本の代表的なICT企業が参加しておりますので、その要求仕様を実現するための商品ソリューションを参加企業から提供していただいたりもしています。
調査研究だけで終わってしまうと何も残りませんが、複数の会員企業がコラボレーションして新しい商品を作り出しているのが当協議会の特長で、そうした活動を通じてさまざまな企業や団体が参加できる事業モデルを構築できれば、将来的な社会実装に繋がると考えています。

「IoTおもてなしクラウド事業」における実証事業の概要についてお聞かせください。

荒井氏:2016年度は、IoTおもてなし環境の実現に向けた共通クラウド基盤構築実証と地域実証を実施しており、梅本さんたちには、東京・千葉の3エリアで実施された地域実証のうち、千葉・幕張・成田地区を担当していただきました。

梅本氏:我々はICカードとICT機器を連携させる実証事業に取り組んでいるのですが、これが実現できるとすごいおもてなしになることは間違いありません。どういうことかと言いますと、まず訪日外国人の方が入国された時点で、パスポート情報などのパーソナルデータとICカードのIDを紐付けるんです。すると、ホテルにチェックインするときにパスポートをわざわざ提示する必要がなくなります。ICカードをかざせばクラウドからパーソナルデータを取得できるので、今のようにコピーをとったりする必要もなく、スムーズにチェックインできるというわけです。便利なのはそれだけではありません。IDと連携したICカードを1枚持っていれば、移動するときに鉄道にも乗れますし、買い物や食事を楽しむこともできます。
我々の事業では、美術館と連携したチケットレス入場や、デジタルサイネージによる自国語での観光情報・経路案内の提供、さらに多言語翻訳機の有効性についても実証を行っています。このようにICTサービスの実証を該当エリアで横断的に行い、その手順や運用に関するアンケートを収集することで、問題点を整理し、解決行動に繋げていきます。
「レガシー」として将来的にはインバウンドのお客さまに対してだけでなく、国内の旅行者や生活者も同じように享受できるおもてなしを構築しようと、社会実装に向けた活動をしています。

2年目を迎えた「IoTおもてなしクラウド事業」ですが、今年はどんな実証を行っているのでしょうか。

荒井氏:2017年度は梅本さんたちにお願いし、「IoTおもてなし環境の社会実装に向けた情報仲介機能の在り方に係る調査研究」として、全国7エリアで地域実証を行っているところです。
前年度の実証を踏まえて、今年度はユースケースの範囲を地方都市にも拡大し、関係者間のルールの整備なども検討することにしています。

梅本氏:当協議会は7エリアで1,700名のモニターを集めようとしていますが、すでに9月より、高松、千葉、成田、都内、会津、小諸の各エリアで、情報仲介機能の検証を目的とした地域実証に取り組んでいます。
例えば会津エリアの場合、協議会のメンバーであるソフトバンクさんが開発した多言語対応観光アプリ「Japan2Go!~OMOTENASHI ICT NAVI~」と連携しており、そのアプリをスマホにダウンロードすれば、6ヵ国語に対応した会津エリア内約600ヵ所の観光関連施設情報や、お勧めの観光モデルコースを入手できる仕組みとなっています。
スマホ以外にも、ICカードやデジタルサイネージ、4Kプロジェクターなど、ICT機器を活用することで、個人の属性に応じた最適のサービスや情報を提供していこうとしていますが、その実現にあたって必要なパーソナルデータが利活用できる環境整備に向けて、実証を重ねているところです。
Japan2Go!
http://japan2go.jp/

パーソナルデータがどこに保存されて、どう活用されるのか、不安を感じる方もいると思います。実証事業では、セキュリティをどう確保するかについても検証していくのでしょうか。

荒井氏:個人情報の取扱いについても、実証の中で検証してまいります。
IoTおもてなしクラウド事業では、最初に登録したパスポート情報などの個人情報を、クラウドを介してやりとりすることになりますから、情報が漏洩しないよう、訪日外国人の方も、事業者側も、安心して利用できるようなルール作りが必要だろうと考えています。

梅本氏:よく「安全・安心」と言いますが、この2つの切り口は全く違います。
「安全」は日々進化しているテクノロジーによって確保できますが、「安心」は気持ちの問題ですから、テクノロジーでは解決できません。
実証では、モニターに対して「情報を管理するのはどういう事業者がいいですか?」とか「提供先とどういう契約内容だったらいいですか?」というようなアンケートを実施しているんですが、今後はその結果も踏まえて、個人情報保護法に基づいた制度設計が検討されていくものと思います。

「IoTおもてなしクラウド」は将来的にはオープンクラウドになることを想定しているのでしょうか?

梅本氏:そうですね。現在は事業クラウドに蓄積された情報を協議会の会員社が共有していますが、将来的には、例えば民宿のような事業者でも、クラウド上のパーソナルデータをおもてなしに利活用することができるようにしようという構想なんです。
ある一定のルールに基づいて誰でも参加できる仕組みにしていかないと、施設によっておもてなしに差ができてしまう。それでは日本の総合的な魅力になりませんよね。

さまざまな課題があるようですが、2020年東京大会に向けて「おもてなし」の環境を整えなければならないという機運が高まっているように思えます。

梅本氏:目標があると、国も企業も活動しやすいですよね。東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会が開催されることは決まっているわけですから、そこに向かって実行計画を積み上げていく。終わった後もICTサービスがレガシーとして受け入れられていけば、多くの企業のビジネスにも繋がっていきます。
2020年東京大会は、日本が観光立国として成り立っていくための大きなきっかけになるのではないでしょうか。

先ほどご紹介いただいた多言語対応観光アプリ「Japan2Go!」は、アクションプランの実現を目指して、協議会の会員社が開発した商品ソリューションと考えてよろしいでしょうか。

梅本氏:まさにその通りです。総務省の要求仕様に基づいて、スマホとICT機器を連携させているから採用されたわけです。
協議会が創り出した商品というのはほかにもありまして、例えば大日本印刷さんが開発された「観光インタラクティブサイネージ」もその一つです。このサービスは「Japan2Go!」の観光情報と連携しているんですが、協議会がなかったら、そういうことはまず実現しなかった。実は観光情報というのは、データベース化や言語翻訳にいちばんお金がかかるんです。協議会は現在6言語(日本語、英語、中国語・繁体字、中国語・簡体字、韓国語、タイ語)に対応していますから、1つの情報をそれぞれの言語に翻訳しなくてはなりませんが、連携すれば費用は抑えられる。
同じ目標に向かってみんなで解決行動をとれば、コストパフォーマンスがよくなりますし、それが「壁をなくす」というアクションプランのキーワードにも繋がるわけです。

「Japan2Go!」は地域実証をしているエリア以外でも使用することができるのでしょうか?

梅本氏:もちろんです。ぜひダウンロードして、ICTを体験してみてください(笑)。
ちなみにデジタルサイネージに関して言えば、総務省が指導している「Lアラート」という災害情報共有システムがあるのですが、その情報を全国のサイネージに多言語対応で出すことはテクノロジーで可能です。
しかし、たとえば秋田で地震があったことを東京のサイネージで知った場合、我々は秋田がどこにあるかすぐに分かりますけど、訪日外国人の方は分かりませんよね? すると「すぐに逃げなくては!」というパニックが起きる可能性がある。先ほどの「安全・安心」にも繋がることですが、テクノロジーで情報を出せるとしても、訪日外国人の方たちを混乱させないように、施設オーナーの方たちとどういう運用をしなければならないかを考えなくてはなりません。そういうことはフィールドに落として運用してみない限り分からない。
我々の言葉で「運用設計」というのですが、それは現場に行かないとできませんし、「運用設計」ができなければ社会実装にも繋がりません。

最後に、ICT化の長期的展望や、社会実装に向けた課題についてお聞かせください。

荒井氏:現在、2020年に向けたアクションプランに基づいて、さまざまな取り組みを展開しておりますが、その先、たとえば2030年はIoTやAIの技術が飛躍的に進歩していると考えられますから、今から展望するのはなかなか難しい点もあるかもしれません。
とはいえ、特にIoTに関するデータはどんどん蓄積されておりますので、それらを踏まえて、継続的に長期的な視点を持ってICT化に取り組んでいかなければならないと考えています。

梅本氏: 総務省が示したアクションプランは「いろいろな壁をなくして、訪日外国人だけでなく、日本人にとっても価値のあるサービスにしていこう」というもので、実現することによる本質的な価値がある。
しかし、そのことを多くの人たちが他人事ではなく、自分たちのこととして捉えて、行動に移していかなくては実現できません。実際にICT化を推進していくのは地方自治体や民間企業、NPO・NGOですから、そういう方たちが増えていかないと社会実装には繋がらない。
今後はSNSなども活用しながら、実現を目指す人たちを増やしていくようなコミュニケーション戦略も重要になってくると思います。
街を歩けば多くの外国人とすれ違う昨今だが、観光立国に向けた取り組みは急ピッチで進んでいるようだ。ICT化によってストレスフリーなおもてなし環境を整備することは、日本人にとっても高齢者や障がい者にやさしい社会の実現に繋がり、さまざまなビジネスチャンスを生み出すに違いない。

(取材日 2017.11.22)
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