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業務の自動化に関心が高まる「RPA(Robotic Process Automation)」。多くのベンダーが商品化・サービス化を進めている中、ソフトバンクはRPAを自社の多くの部門の業務に取り入れていた。

そこで培った経験や知見を取り入れた「SynchRoid(シンクロイド)」というRPAソリューションを2017年11月に発売した。新しい技術はまずは社内で利用し使い勝手を検証、売れると判断したものを商品化するソフトバンク。RPAにはどのような可能性を見いだしているのか。

ソフトバンクでビジネスプロセスの改善・推進を担当し、RPA推進リーダーも務める上永吉聡志氏と、マイクロソフトやグーグルなどを経て、現在は幅広い企業の技術アドバイザーを務める及川卓也氏とともに、RPAの可能性とテクノロジーと人の理想的な共存のカタチを探った。


1994年、ソフトバンク入社。法人営業・事業戦略策定・通信事業者間の渉外業務を経て、法人向け事業のビジネスプロセスの設計・管理を担当。近年はソフトバンク社内でRPAなどのITツールを活用した働き方改革と、デジタル時代に適応した社員育成を牽引。同実績に関して、「RPA/ビジネスAIカンファレンス2017」など、数多くの社内外イベント・セミナーで講演。

早稲田大学卒業後、ディジタル・イクイップメント・コーポレーション(DEC、現ヒューレットパッカード)やマイクロソフト、グーグルといったグローバルカンパニーにてソフトウェア開発に従事。グーグルでは、ChromeのWebプラットフォームチームのエンジニアリングマネージャーを務めた。その後、独立。現在はプロダクト開発戦略立案やエンジニアの育成プラン、組織作りなどを総合的に支援するコンサルティングサービスを複数企業に展開。2018年2月には、デンソーとの技術顧問契約を締結した。

RPAは「ちょうどいい」存在感

──企業がRPAに注目する理由をどのように感じていますか。
上永吉: RPAは簡単に言えば、日常的に繰り返しPCで行う単純な定型業務をソフトウェアに覚えさせ、同じ作業が発生した時に人を介さずにロボットに代行させるツールのことです。ツールで生み出したロボットは、しばしば「デジタルレイバー」とも呼ばれています。 紙文書をデジタル化した後に、ロボットがデータ入力作業を代行するなどはその代表例ですね。

及川:人材不足は、企業規模や業種・業界問わない共通の課題。今後はもっと切実になること、そしてテクノロジーを活用しないといけないことを、みなさん知っています。RPAに対する注目度が高いこともうなづけます。

上永吉:一部の大手企業を除いて、AI(人工知能)の導入となるとお金もスキルも足らない印象をみなさんが持っている。なので、導入の障壁は比較的低く、導入した効果が目に見える形で期待できそうなRPAはちょうどいい存在として注目度が高まっているのかもしれません。

テクノロジー導入には視野と我慢と覚悟が必要

──AIでも同じことが言えると思いますが、RPAを導入すれば何でも解決できるという「幻想」をユーザーから感じたことはありませんか。
上永吉:ないとは言えません。RPAの「Robotic」や「Automation」はそれを連想させてしまうのかもしれませんが、お客様によっては「ボタン1つで劇的に変わる」という誤解をお持ちの方はいます。

及川:でしょうね。「魔法」を求めて導入を決めたものの、「なんだ、人のほうが優れているじゃないか」という感覚に支配されて、結局は人力に戻してしまう場合があるでしょう。これは、RPAやAIに限らず、ITツール全般で散見されます。

それから、コスト削減を第一の目的に置いてしまうと、人のほうがよかったじゃないかという考えに陥りやすいです。当面は人のほうが速いですから。
テクノロジーを企業に導入する場合、大切なことは、テクノロジーを導入した時をゴールとしてではなくスタートとしてみること。おおげさに言えば、テクノロジーを育て続けて、人を超える分岐点の後に待っているメリットを見通せる視野の広さと覚悟、そして我慢があるかが大事だと感じています。

「ツール+プロセス+組織」がカギ

上永吉:「テクノロジーを育てる」という考え方はその通りだと思います。補足すると、テクノロジーを現場が育てていける社員や組織を作ることが重要だと考えています。
普段のオペレーションの中で課題が生まれ、それをどんなテクノロジーを使えば解決できるのか。導入後に見えてきた改善点や不満ポイントを抽出して、テクノロジー(ツール)をチューニングしていく。その繰り返しによって業務とテクノロジーをシームレスに融合させる。そのPDCAをちゃんと回すことが必要だと思っています。
RPAのいいところは、専門的なプログラミングのトレーニングを受けていない現場の社員でも、自動化の設定ができることにあります。情報システム部門に頼まなくても自分たちで日常のオペレーションを進化させることができるんです。
せっかく新しいツールを導入しても使わなくなっては意味がない。継続的に活用していくためには「人、ロボット、組織」を対象に、導入後のパフォーマンス、リスク、ナレッジの3点で日常の業務プロセスをマネジメントする手法を整備しておくことが大切です。
だから私たちとしては、RPAソリューション「SynchRoid」のビジネスモデルは、ツール単体の提案ではなく、ツールとそれを運用するプロセス、さらにチーム作りといったノウハウをオールインワン・パッケージとして、お客様へ提案しています。

経営スピードに組織が追いつかなかった

──そもそも社内でRPAを導入するに至った背景は何でしょうか。
上永吉:端的に言えば、ソフトバンクが目指す成長スピードに対して、人海戦術だけでは追いつけなくなったことです。
私たちは無数のプロダクトやサービスを提供してビジネスしています。現場の社員が迷うことなく動けるように、標準的なシステムと業務を設計する必要がありますが、複数のプロダクトやサービスをお客様ごとにブレンドした「業務の型」を完璧に整備できていないケースは多々あります。
どの企業においても、ある程度はオペレーションの標準形を作るものの、かゆいところは現場の人手で届かせるというやり方が今でも続いていると思われます。当社においては、次々と扱うサービスが増えるため、やがてこのやり方だけでは限界を感じるように。
そこで、従来のPCを介して人とシステムが向き合う2層構造の「業務の型」に、ロボットを取り入れた3層構造の業務スタイルを実験してみようというのが動機でした。

及川:人と従前のIT、それに加えてロボットを入れるという3層構造とはユニーク。確かにこれからはそんなトライアングル体制が必要になってくるかもしれません。

上永吉:それともう一つ理由があります。人は単純作業を続けると目先の作業に追われ、疲労感、閉塞感が漂い、情報感度も鈍くなり、新しい仕事のやり方へのチャレンジ精神は薄れるものです。
長く続けているうちに新しい視点で考えて楽しく仕事をする機会が減ることを問題視していました。ソフトバンクでは働き方のスローガンとして「Smart & Fun!」を掲げており、RPAなどの身近なテクノロジーを駆使して、全社員がスマートに楽しく働くことを目指しています。

及川:私が経験してきたエンジニアリングの世界には、ものぐさな人が多い。プログラムをコピペしたり、単純な修正を繰り返したりするとき、「人のやることじゃないよね」って言う。でもこれ、コンピューターのエンジニアに限らず、きっとみんなが思っていることだということでしょうね。
──ソフトバンク自身の具体的な成功事例を紹介してください。
上永吉:固定電話のサービスで新規開通登録を行うのに、システム入力を自動化した例があります。月間760時間を要していたのが、RPAを使い自動化することで69時間にまで減らせました。
規模が小さくても劇的に変わったのが、Webシステムの資料をダウンロードする作業です。Excelにリストアップされた番号をコピーして、Webシステムに入力して検索、表示された画面から資料をダウンロードするのですが、月間30時間の作業がゼロへ。人手が完全に不要になりました。
そしてオペレーションを担当する社員のモチベーションが上がり、仕事の満足度も上がったんです。

RPA定着の現実解「家元制度」

──ソフトバンク社内で行った、RPAを定着させ活用するための施策を教えてください。
上永吉:定着しないのには理由があるんです。それは、開発担当者への教育機会の提供と実践の場づくりにあります。実に単純な理由なのですが、ここがなかなか難しいところでして。
そこで、ソフトバンクでは「家元制度」をとることにしました。「教えて SynchRoid」と呼ぶ家元級のエンジニアを中央組織に配置し、その傘下で各部門ごとに専らRPAの開発を担う開発担当者、部門内を統制・リードする推進リーダー、改善アイデアの出し手である運用担当者を任命し、三位一体での導入推進体制を整えます。

及川:とてもユニークですし、テクノロジーを現場に定着させるための良い主張だと思います。

上永吉:最初に対象とした組織では、200人の社員がいました。仕事のうち、RPAの開発にあてる時間は20〜30%です。基本操作を覚えるためにマニュアルやEラーニングなどツールを提供しますが、それだけでは教育としてとても足りません。適切にフォローアップする仕組みが必要で、それを担うのが家元です。
家元は、一日のスケジュールを、すべて各部門の開発担当者のフォローに使います。1時間ずつに区切られた枠に弟子にあたる開発担当者が予約を入れます。英会話のレッスンのように、予約を入れて教えてもらう。メンターのような存在でもあります。これを繰り返し続けることによって着実に技が伝承され、新たな家元が生まれるのです。
結果、RPAによって社員が解放された単純作業は60人月。次年度では120人月の解放を目指していますが、すでにこれだけの実績が上がっています。
この成功体験をもとに、他の組織へも拡張していくのが正攻法だと実感しています。
ソフトバンクの場合、この1年あまりの成果はRPA化アイデア数で2000個以上、開発プロジェクト数は600個以上、開発者育成人数は150人以上になりました。月間削減時間は2017年度で実績1万時間、2018年度は2万時間を見込んでいます。

及川:素晴らしい成果だと思います。私は「使われないIT」をたくさん見てきましたけれど、大概の場合はIT部門などの導入側と、使う側のユーザー側の温度の違いが要因の一つだと思います。
家元制度によってソフトバンクはその違いを埋めている。業務を進める人とエンジニアの中間のような「オペレーションエンジニア」のような職種を家元制度という形で具現化したことが成功の理由の一つかなと感じます。
──多数の従業員が業務を変えられるのは魅力的ですが、新たな問題は起きませんか。
上永吉:それは懸念されます。勝手にルールを作ってしまっては、モラルやガバナンスの問題が生じてきますので、ガイドラインや運用ルールを整備することも必要ですね。

人としての価値がRPAで浮かび上がる

──RPAを実際に導入してみて、何に真価を感じていますか。
上永吉:人としての価値、つまり「人らしさ」に向き合うことができる、それが最大の魅力でしょう。私たち自身が導入しようとした最大の動機も、コストではなく、単純作業からの解放です。
高度な仕事、クリエイティブな仕事を担ってもらいたいのです。時間からの解放は、新たなキャリアを育むための糧になります。ビジネスを下支えする現場のワークスタイルを新しくする、そして誰もがプライベートもビジネスも心底充実して、「人らしく」過ごせると理想的ですね。
及川:テクノロジーと人の、いい共存の形ですよね。多くのシステム同士をつないで全体最適を図る中で、見方によっては、人も部品の1つになると思います。ここで重要なのは、「手足の部品」になってはいけないということ。「脳の部品」にならないと。
IBMのコンピューターがチェスで世界王者に勝ったとき、随分とセンセーショナルに報じられましたが、大会はあの後、人間のプレーヤーとコンピューターが協力して一緒に戦うものに趣向が変わりました。
よく出回っている奪われる仕事リストを見ていると、なくならない仕事には共通点があります。それは、人に関すること。コンピューターのアシストを受けながら、エモーショナルなことや、人に接してほしいと感じることは残り続けるでしょうね。
上永吉:私も、「おもてなし」の分野で人とテクノロジーが適材適所で共存して働く世界が来ることを確信しています。RPAで何ができるかを考えることは、人として本来的に「こうありたい」を気づかせてくれるベクトルになる。人としての価値がRPAで浮かび上がったように感じています。

(取材日 2017.10.31)
■本記事はNewsPicks Brand Designの制作のもと、2018年3月26日にNewsPicks上に掲載されたものです。
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ソフトバンクのRPAソリューション「SynchRoid」
https://www.softbank.jp/biz/other/rpa/
 
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